Ado、平手友梨奈ら所属、クラウドナイン代表取締役社長・千木良卓也が振り返る2024年 「いちばん避けたいのは後悔すること」J-POPの海外確立を見据えて
マネジメント観の軸「ハンドルとアクセルは本人に握っていてほしい」
ーーアーティスト数も増えていますが、クラウドナインは新人開発はどのように行っているんですか? 千木良:YouTubeやSNSで探して私が声をかけるパターンと、所属しているアーティストがきっかけになることもありますね。みんな、普段から事務所のことをすごく褒めてくれているみたいで、それを聞いて「入れてくれませんか?」と会社に問い合わせがくることもあります。 ーーそこから実際に会って、音楽を聴いて所属の可否を判断するんですよね。過去のインタビューでは「声質を大事にしている」ともおっしゃっていましたが、どんなことを基準にしているんですか? 千木良:声に関しては変わらず、声質とその子の低い声は気にしています。高いレンジはトレーニングである程度は伸びるけど、低い声をトレーニングで伸ばすことは高音に比べると難しかったりするので。あとは、やりたいことが明確かどうか。たとえば、「大きいところでライブがしたいです」みたいな人よりは、「武道館でライブがしたいです」と言う人とは組んでみたいと思います。もっと言うと、「いつまでにこういう理由で武道館でライブがしたい」というところまで思っている子はすごくマネジメントしやすいです。 ーービジョンが明確かどうか、ということですかね。 千木良:目的と、そこに行くまでの手段ですよね。たとえば、東京から北海道へ行くと仮定した時に、そのままがむしゃらに走って北海道まで行こうとするのか、もしくは「3日間アルバイトをしてお金を貯めてから飛行機で行けば4日で着ける」と考えられるかの違いは大きくて。「北海道に行きたい」と言えるのがアーティストだとしたら、私たちマネジメントの仕事は「飛行機で行きなさい」と言えることだと思うんです。逆に、北海道なのか、沖縄なのか、韓国なのか、どこに行きたいのかがわからない子は目的地を決めるところからスタートするので少し時間がかかります。 ーー千木良さんのマネジメントに対する考え方がわかりますね。 千木良:ハンドルとアクセルは本人に握っていてほしいんです。私たちはさまざまなアーティストをマネジメントした経験があるから、行きたい場所への行き方を示すカーナビにはなれる。あと、速度を上げたり、落とすためのギアチェンジ、ブレーキまではできるんです。でも、目的地を決めて、アクセルを踏むことだけは本人にしかできない。どこに行きたいか、それに対して動けるかどうか。そのふたつがそろっていたら、ぜひ一緒に仕事したいと思えます。 ーー新人で言うと、ファントムシータが今年デビューしました。Adoさんがすべてプロデュースしているということで。 千木良:楽曲や衣装のディレクション、SNSの写真チェックからプロモーションまで、すべてAdoが決めています。契約関係やクリエイティブ以外のことをサポートしているくらいです。 ーーそういったアーティストマネジメントとは別で「Cloud Box Lesson」や「SHOWBIZ」といったサービスも展開しています。いずれもキャリアの浅いアーティストやクリエイターの支援につながるものという印象を受けますが、どういう意図で展開しているのでしょうか? 千木良:「Cloud Box Lesson」は、純粋にエンジニアの育成が目的です。ミックスエンジニアは歌や作曲と違って、育成することで伸びやすいし、我々の仕事にも繋がる職業だと思っていて。スクールに参加する人は経験と技術が手に入りますし、あと、アーティストを目指すフリーの方のなかには、音源をミックスしてほしい人はたくさんいて、そういったミックスの依頼をスクールでは無償で受けているんですね。音源を送る人は無料でミックスができて、「Cloud Box Lesson」受講者にとっては教材になります。それに、会社としてはネットにアップされる前のデモ音源が自然と集まってくるので、そこでスカウトの幅も広がっています。 「SHOWBIZ」は、タイアップ曲が“どんな曲”ではなく、“誰が歌っているか”で決めることに違和感を覚えたことが発端です。プロモーションのことを中心に考えているのであれば別ですが、作品の質やクリエイティブを高めるのであれば、“誰が”ではなく、“どんな曲”のほうが大事だと私は思っていて。選択肢を“誰”ではなく、“曲”に変えたいと思って作ったのが「SHOWBIZ」です。あと、印税の在り方についても思うところがありました。「SHOWBIZ」は、印税を原盤と出版という従来の形に分配するのではなく、タイアップ先、作詞家、作曲家、歌唱者、編曲者、ミックスエンジニアにそれぞれパーセンテージで割り振る考え方です。おそらく、編曲者とミックスエンジニアにとっての印税という仕組みは極めて珍しいと思います。 ーーJ-POPに対する危機感にしても、マネジメント以外の取り組みに関しても、音楽業界にある定石を打ち破ろうとする意思を感じます。5周年を経て、次は10周年に向けてどんなことを考えていますか? 千木良:実現する/しないは置いておいて、具体的な構想ややることはほぼ決めているんです。ただ、それについてはまだ話せないことが多いので……。抽象的に言うと、かっこいいことをやりたいし、かっこ悪いことはやりたくないです。 あと、社員やアーティストに対して一貫しているのは、「信じてほしい」ということですね。私がいちばん避けたいのは、後悔することなんです。自分を信じていない時、「できないかもしれない」と思った時、人は動けなくなるし、そうなった時に後悔は生まれると思っていて。アーティストにはアーティストの、社員には社員の、私には私の、それぞれ信じている夢や希望があると思います。時代の後押しや運ももちろんあったと思いますが、この5年間で「無理だ」と思わずに信じ切ったものを実現できた実績がクラウドナインにはあります。社員や私も含めて、アーティストたちからもらったこの経験とチャンスを信じて、次の目標を実現まで持っていく5年間にしたいですね。 ※1:https://youtu.be/0acWFq9G90w?si=_D8SoaNSbfW5z895
泉夏音