Ado、平手友梨奈ら所属、クラウドナイン代表取締役社長・千木良卓也が振り返る2024年 「いちばん避けたいのは後悔すること」J-POPの海外確立を見据えて
世界における日本の音楽の立ち位置と危機感「戦う土俵を意識しなければいけない」
ーーAdoさんは今年の4月に国立競技場でワンマンライブを開催し、そこから国内ツアーやイベントへの出演と精力的にライブを行ってきました。アーティストとしても自身作詞作曲の楽曲「初夏」を初披露するなど、新しいフェーズに入ってきている印象もあります。千木良さんから見て、彼女の2024年をどのように振り返りますか? 千木良:今年は国立競技場でライブをして、自作のオリジナルソングも出し、アイドルグループ・ファントムシータのプロデュースも始めました。2024年は彼女にとって挑戦の年だったように思います。 ーー今年行ったワールドツアーの手応え、千木良さん自身が現地で感じたことについて教えてください。 千木良:ひとつは、日本から見えている景色と海外から見えている景色は違うということ。日本のアーティストが世界ツアーをまわっているという話はたびたび聞きますが、まだ土俵にすら立っていないかもしれない、というのが正直な感覚です。極論を言ってしまえば、地方出身のアーティストが東京の端っこの50人くらいのキャパシティのライブハウスをいくつかまわって、「東京進出しました!」と言っているような気分に近いというか。日本から見ているグローバルにおける自国の音楽の位置付けと、現地でのリアルな日本の音楽の位置付けにはギャップがあると思いました。 あと、アニメに頼ってばかりではいられないというのは感じましたね。たとえば、世界的に見て音楽やスポーツといった王道のエンタメの規模と比べると、アニメはまだマニアックなエンタメなんです。とはいえ、グローバルにおける日本の音楽のシェアの規模に比べると、日本のアニメのシェアはとても大きいので、そこに乗ることで通常以上の成果が出ます。ただ、本来音楽が持っている市場規模を考えると、アニメは現時点では天井がとても低いんです。そんななかでアニメありきで戦っていくこと、“日本の音楽=アニメ”というイメージになっていくことに危機感を覚えましたし、戦う土俵を意識しなければいけないとより思いました。 ーー危機感について、もう少し詳しく聞きたいです。 千木良:私の肌感覚ではありますが、あと3、4年以内に勝負をかける必要があると感じています。今、海外の人が主に認識しているアジアの音楽はK-POPだと思うのですが、そこに追随するようにインドネシア、マレーシア、タイの音楽市場が大きく伸びてきているんですよね。この3カ国の音楽はK-POPに少しインスパイアされているところがあって、仮に数年でいずれかの国の音楽が海外に届いたとすると、おおもとのK-POPテイストの音楽が“アジアポップ”という認識に変化すると思います。そのアジアポップが確立されたとすると、我々が作っているJ-POPはアジアポップのなかのニッチな音楽になってしまう可能性がある。あくまで仮定の話ではあるけれど、そうなる前にJ-POPをグローバルのなかで確立しなければならないなと思います。 ーーAdoさんの来年の大規模ワールドツアーの裏テーマには、J-POPをより広く知ってもらうという意味もありそうですね。 千木良:そうですね。でも、彼女と私のなかでワールドツアーを行う理由は異なっています。私は使命感というか、Adoという存在をマネジメントしているからには、やらなければならないという気持ちが強い。今の日本の音楽シーンを見渡した時に、グローバルの土俵で勝負ができて、3、4年以内に全盛期を迎えられるソロアーティストは、今のところAdoしかいないと思っていて。もし、日本のアーティストでグラミーのメインの賞に引っかかることができるとしたら、彼女だけだと信じているんです。J-POPへの危機感も相まって、「やりたい」というよりは「やらなくては」という意識が強くなってきています。Adoは自分を世界に届けたいではなく、J-POPやボカロ業界を世界に届けたいという意思で動いているので、それも手伝いたいですしね。 ーー過去の取材でも“日本語”であることを強く意識していると話していましたが、その理由がよりわかりました。 千木良:日本において『冬のソナタ』やBTSが社会現象になって韓国語を習う人が増えたように、音楽を含むエンタメが日本語を世界に広められる可能性のある仕事だと思っています。一発で、ほかの国の人たちにその言語を喋らせられるのがエンタメなので。