僧侶の英月さんがゾッとした〝意識〟に縛られていく恐怖 「クラブゼロ」
「最新の食事法」を発信しネット上で話題になっていたノバク(ミア・ワシコウスカ)が、栄養学の教師として名門校に赴任してきたことから物語は始まります。「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」と〝意識的な食事〟を提唱する彼女の言葉に、環境保護や自制心の鍛錬などさまざまな目的で栄養学を選択した生徒たちは興味津々。実践すると、多幸感や高揚感を抱くといった変化が表れ、彼らは新しい食事法に夢中になります。しかし「食べないと死ぬというのは単なる思い込み」と教えるなど、ノバクの言動はどんどん過激に。ついに彼女は、自分は何も食べない人たちによる世界的な団体である「クラブゼロ」のメンバーであると告げます。 【写真】人の考えは簡単に変えられてしまう 「クラブゼロ」の一場面 さて、奨学金が目的で履修していたベンは栄養学にはまったく興味がなく、食事法の実践もせず、母親お手製のクッキーを食べ続けるような生徒でした。しかしある日の授業中ノバクから、なぜ意識的な食事の原則にあらがうのかと詰問されます。自分のために料理する母親を悲しませたくないと答えると、今こそ束縛から解き放たれる時だ、本当の自分になるのだと励まされます。そして、告白の正直さと勇気をほめたたえられ、やがて熱心な実践者に変えられていきます。その結果「今まで自分は洗脳されてきた」とまで言うように。 出会う人や周りの環境によって、「親の愛情」が「自分を抑圧する洗脳」に変えられたことにゾッとしました。恐ろしいことですが、人の考えというものは簡単に変えられてしまうのです。自分を解放するはずの食事法によって、逆に人々がどんどん縛られていく姿は痛烈なブラックユーモア。ですが、これらは決して人ごとではないのです。 Ⓒ COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
大行寺住職 英月