《ブラジル》芸術フットボールを追い求めて=沢田啓明=第3回=スポーツライター冥利と気苦労=まさかのドタキャンもしばしば
指定時刻は夜10時にサンパウロ郊外だが…
ただし、すべての選手に快くインタビューを受けてもらえるとは限らない。 2000年から2005年までコンサドーレ札幌、川崎フロンターレ、浦和レッズで快速ストライカーとしてゴールを量産したエメルソンがその一人だ。 彼はリオ郊外の貧困家庭の出身で、栄養不足のため体が小さかった。プロクラブのアカデミーのテストに落ち続けて泣く息子を見て、母親が生年月日が3歳近く若い身分証明書を偽造。そのお陰で名門サンパウロのアカデミーに滑り込み、3年後、21歳だったが18歳という触れ込みで日本へ渡った。 Jリーグでは2部でも1部でも異次元のプレーを見せたが、練習に頻繁に遅刻するなど問題児としても名を馳せた。 2018年に現役を退き、現在、46歳。ブラジルのテレビ局のスポーツ番組のコメンテーターを務める。この番組の担当者の仲介で、11月下旬、番組を収録する前にテレビ局の控室でインタビューできることになった。 指定された時間は、夜10時。収録が11時半に始まるので、それまでの間であれば、ということだった。 夜半、サンパウロ郊外にあるテレビ局へ行き、控室で待っていたところ、番組担当者から「体調が悪い、という連絡があり、来れないそうだ」と伝えられた。 その後、何度も彼に連絡をして「わかった、今度やろう」とまでは言うのだが、実現しないまま1カ月近くが過ぎた。 ブラジルに長期滞在したり住んだことがある人にはおわかりいただけると思うのだが、この国ではドタキャンを食らったり重要な約束を反故にされることがしばしばある。こういう場合、カリカリするとストレスが溜まってノイローゼになりかねない。 このような困難や気苦労はブラジルでスポーツライターの仕事をする者の宿命なのだ、と考えて自分を慰めている。