ルーマニア大統領選にもSNSの民意 親露極右候補、首位で決選へ
東欧のルーマニアで12月8日にある大統領選の決選投票に、親ロシアとされる極右政治家のジョルジェスク氏が首位で進出した。泡沫(ほうまつ)候補扱いから数カ月で躍進した原動力は、ネット交流サービス(SNS)や動画の投稿だった。隣国ウクライナへのロシアの侵攻を受けて、ルーマニアの地政学的な重要性は増す。予想外の政局に、欧米各国で驚きが広がっている。 【写真】TikTokで乗馬技術を披露するジョルジェスク氏 ◇国防と外交に権限持つ大統領 ルーマニアでは首相が行政を指揮する一方、大統領は国防と外交の権限を持つ。ウクライナ危機以降、米国との協力を深め、ウクライナへ防空システム「パトリオット」の供与も決めた。周辺地域の安全保障において重みを増しており、大統領選の結果が与える影響は無視できない。 大統領選の第1回投票は24日に実施された。地元メディアによると、ジョルジェスク氏が得票率約23%で首位に立った。野党の中道右派「ルーマニア救国同盟」党首でウクライナ支援継続を訴えるラスコニ氏が19%で続き、決選投票へ駒を進めた。中道左派、社会民主党の現職首相チョラク氏は3位で敗退した。ウクライナ支援や物価高対策などが争点となった。 欧米メディアによると、ジョルジェスク氏は超国家主義政党出身だが、今回の選挙には無所属で臨んだ。10月の世論調査では支持率1%未満と低迷し、11月に入って急速に支持を広げたが、それでも5%台だった。予想外の躍進といえる。 ジョルジェスク氏は、プーチン露大統領について、ウクライナ侵攻直後に「自国を愛する男だ」と発言した。また、自国内に北大西洋条約機構(NATO)のミサイル防衛システムがあることを「外交の恥」だと批判している。1930~40年代のルーマニアの全体主義者を「英雄」と呼び、物議を醸したこともある。 ◇TikTokのフォロワー35万人 一方で、中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」では乗馬をしたり、黒帯を締めて武道の稽古(けいこ)に励んだりする動画などを投稿し、26日現在で35万人のフォロワーを有する。 今回の選挙戦でもSNSを駆使し、主に地方居住者や男性の票を集めたとされる。東欧のある外交官は取材に対し、「新聞やテレビのニュースに全く触れず、SNSだけを見る人々が支持した。世界中の選挙でSNSの影響力は増しているが、それがルーマニアでも起きた」と分析する。 隣国モルドバで最近あった大統領選の際に指摘されたのと同様に、ロシアが介入した可能性を伝える報道も出ている。 ルーマニアでは12月1日に議会選も予定される。追い風を意識して、出身の超国家主義政党などが事後的にジョルジェスク氏への支持を表明した。「旋風」の成り行き次第では、ウクライナに対する欧州の多国間支援の枠組みが揺らぎかねない。【ブリュッセル岡大介】