新種のヤモリを発見、ゴッホの名画にちなんで命名、「ゴッホの星月ドワーフヤモリ」
知られざる種
こういったヤモリが危機に直面しているかどうかを判断するのは時期尚早だ。しかし、アグラワル氏は、新種がトラ保護区で見つかったことから、この地域が安全な緩衝地帯になっている可能性があると言う。ほかの多くの種にとって、このような場所は存在しない。 もうひとつの好材料は、西ガーツ山脈のほとんどの場所が未開発であることだ。この一帯は、非常に地形が険しいため、経験豊富な研究者でも近寄りがたい。 標高が低くても、林床や川沿いの日陰の岩場に隠れている新種は、見逃しやすい。 さらに、今回の研究とは無関係な米ジョージア工科大学の進化生態学者であるジェームズ・ストラウド氏によれば、トカゲ類の研究はあまり進んでいない。 「とにかく、トカゲ類を研究する生物学者が少ないのです」とストラウド氏は言う。
「すべてが貴重な存在」
それでも、アグラワル氏をはじめとする研究者たちは、この地域の調査に赴いている。特に近年は、盛んに調査が行われるようになっている。 たとえば、ほんの20年前には、Cnemaspis属はわずか数種類しか知られていなかった。それが今では、インドとスリランカだけでも、100種類以上が記録されている。 世界的に見れば、科学文献に記載されているCnemaspis属は、少なくとも2300種にのぼる。米ビラノーバ大学の生態学者で、ヤモリに詳しいアーロン・バウアー氏によると、数年前までは1000種ほどだったが、そこから大きく増加した。なお、氏は今回の研究には関わっていない。 「新種のヤモリは、つねに発見され続けています。インドは、その中心と言える場所のひとつです」とバウアー氏は話す。 ヘイギー氏にとって、今回の発見は、地球の生物多様性のパズルに、新たな知識というピースを加えるものだ。 「こういった論文は重要です。生態系がいかに複雑なものであるかを理解する上で、新たな一歩となるからです」とヘイギー氏は話す。 「ここには、まったく新しいグループのヤモリがいます。私たちが知りもしないものでも、すべてが貴重な存在なのです。そのことを理解しなければなりません」
文=Carrie Arnold/訳=鈴木和博