「お兄さんたちと一緒に、投げる、打つ、走る」静岡県立富士高校、小学生チームと野球イベント
このあとは3チーム合同ノック。稲木監督などがゴロやフライを打って、小学生が捕球する。高校生たちはサポートに回っている。 小さな体格の小学生選手が懸命にボールを追いかける。うまく捕球できると『ナイス!』と声掛けをする。
目的を理解して小学生と接する高校生
富士高校の選手たちは、このイベントの趣旨をよく理解して、子どもたちに接しているのがよくわかる。 単に野球の技術を教えるだけではなく、子どもたちを野球好きにするには、どうすればいいのかを、選手個々が考え、工夫して子どもに接しているのだ。 いきなりイベントに臨むのではなく、事前に打ち合わせをして、目的意識をもってやっていることが見て取れた 「富士高校は1979年の夏と、1987年の春に甲子園に出場しています。いずれも1回戦で敗れましたが、昭和の時代までは強豪校の一角だったようです。しかし同時に、県下有数の進学校でもあり、選手たちは基本的に勉強で進学します。野球だけに集中するのではないのですが、地域の名門校として野球への取り組みも前向きで意欲的ですね」 3チーム合同ノックの後は、少年野球チーム同士の試合が行われた。富士高校の選手が審判を務める。ファインプレーが出れば、高校生たちは大きな声で「ナイスプレー」などと声援を送る。失敗しても「ドンマイ」と励ます。 こうした姿勢からも、小学生たちは学ぶところが多いはずだ。 また、試合をしていないチームには、選手たちがベースランニングなどの技術を教えている。
中学でも野球を続ける?
このイベントは、小学校チームの指導者や、小学生選手の父兄も見学した。こういう形で「高校生のお兄さんたちの野球」に接することで、野球を続けることの「意義」を新たに見直すことになるようだ。 日本野球界は、プロ、社会人から大学、高校、中学以下まで、それぞれ統括する組織が異なっているために、縦割りになりがちだった。 プロとアマの野球交流は、最近は増えてきたと言ってもまだ制約が多い。 そして今でも、高校野球の場合「選手を勧誘することにつながる」と中学生への接触が制限されているが、世代を超えた「野球を通じての交流」は、今後ますます重要になると思われる。 2018年に制定された「高校野球200年構想」では、高校生による小学校以下の世代への野球教室、普及活動は、奨励されているが、現時点ではあまり熱心に行われていない。 しかし「世代を超えた野球交流」こそが「野球離れ」の流れを食い止める大きなアクションになるのは間違いないところだ。 参加した小学生の親は 「これまで、あまり積極的に練習に参加していなかったので、中学に行っても野球を続けるのかどうか、と思っていましたが、今日はお兄さんたちに混じって楽しそうに野球をしていました。これなら続くかもしれませんね」 と話した。 こうした地道な取り組みこそが、野球の未来に続く、との思いを新たにした。