金持ちに雇われた悪党を、容赦なく処刑する…映画『ロボコップ』で笑えるほど残虐描写が多い本当の理由
■キリストは磔刑の後、復活しなかった? 実は、ヴァーホーヴェンは『ロボコップ』製作と並行して「キリスト学会」に出席していた。これはワシントン州セーラムで、ロバート・W・ファンク教授の呼びかけで集まった77人の研究者が、実在の人間としてのキリストを明らかにしようとした研究会だ。この研究会は8年間続き、93年に『五つの福音/キリストは本当は何と言ったのか?』という本にまとめられた。 そこでは考古学的資料に基づいて、「キリストはマリアの長男ではない」「大工として生計を立てていた」「磔刑の後、復活しなかった」などの結論が導き出された。ヴァーホーヴェンは新約聖書のギリシア語版を持って出席し、積極的に発言した。さらに学会の研究結果に基づいた映画『その男キリスト』を企画した。 「実在の人間として、真実のキリストを描きたい。キリストは、2000年にわたって、教会や国家や権力やさまざまな集団に勝手に解釈され、都合のいいように利用されてきたからね」 ■キリストとロボコップの決定的な違い メル・ギブソンの『パッション』(2004年)がキリスト処刑の罪をユダヤ人に押しつける反ユダヤ映画であると抗議を受けながらも大ヒットしたとき、ヴァーホーヴェンもキリストの処刑を映画化したいと発言した。「ユダヤ教の一宗派だったキリスト教がローマの国教となるには、ユダヤ人であるキリストを実際に処刑したのはローマ人なのに、それをユダヤ人の罪に転嫁する必要があった。私はその欺瞞を暴きたい」と言っている。 また、ヴァーホーヴェンはヒットラーが独裁を確立するまでを映画化しようとしたが、それはナチスに加担したカトリック教会とドイツ国民の罪を問うためだった。神の名を騙る者たちを憎み続けるヴァーホーヴェンは、ロボコップを科学が生んだ鋼鉄のキリストとして描こうとした。 落とされた鉄骨の下敷きになったロボコップに、クラレンスは鉄パイプを突き刺す。これはもちろんロンギヌスの槍を意味している。しかし、ロボコップは「もう、お前を逮捕しない」と言い捨てて、クラレンスの喉に情報端末用スパイクを突き刺して処刑する。 「ロボコップはアメリカのキリストだ。アメリカ人は右の頰を叩かれて左の頰を差し出しはしない」 ---------- 町山 智浩(まちやま・ともひろ) 映画評論家、コラムニスト 1962年東京生まれ。早稲田大学法学部卒。宝島社社員を経て、洋泉社にて『映画秘宝』を創刊。現在カリフォルニア州バークレーに在住。TBSラジオ「こねくと」レギュラー。週刊文春などにコラム連載中。映画評論の著作に『映画の見方がわかる本』『ブレードランナーの未来世紀』『トラウマ映画館』『トラウマ恋愛映画入門』など。アメリカについてのエッセイ集に『底抜け合衆国』『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』などがある。 ----------
映画評論家、コラムニスト 町山 智浩