2度目の防衛戦も圧勝…WBCバンタム級王者・中谷潤人と怪物・井上尚弥の決戦が今一番望まれている理由
2度目の防衛を圧勝で終える
2024年10月14日、WBCバンタム級チャンピオンの中谷潤人は、ペッチ・ソー・チットパッタナを第6ラウンド2分59秒で下し、同タイトル2度目の防衛に成功した。サウスポーとの対戦は5年4カ月ぶりだったが、周到に準備し、2度のダウンを奪っての圧勝だった。 【写真】井上尚弥と試合が望まれる中谷潤人の素顔 チットパッタナは、プロ生活でダウン経験ゼロのタフさを売りとしていたが、中谷を前に打つ手が無く、プロ生活2つ目の黒星を喫した。このタイ人挑戦者の初黒星は2018年12月30日、WBCバンタム級暫定王座決定戦においてである。井上拓真に判定で敗れた。 中谷はチットパッタナ戦の前日まで、WBA同級タイトルを保持していた拓真との統一戦を望んでおり、拓真以上の内容でランキング1位のタイ人選手を下すことを自身に課していた。だが、どう冷静に見ても、中谷と拓真ではボクサーとしての質と力量に違いがあり過ぎる。難なく中谷が勝者となることは目に見えていた。 それでも中谷は言った。 「拓真選手は一度、暫定で世界チャンピオンになって負けた後、一からやり直していますよね。国内のトップ選手に連勝して再評価された。着実に積み上げたところを、評価しています。僕が日本チャンピオンだった頃、2日間スパーリングをやったことがあるんですよ。初日は、自分のイメージ通りに戦えたのですが、翌日、かなりボクシングを変えてきました。適応力の高さにも注目しています」 また、兄、井上尚弥の陰に隠れている拓真への気遣いも見せた。 「常にお兄さんと比べられる自分を感じているでしょう。尚弥選手の活躍があればあるほど、雑音も耳に入るんじゃないかな。それでも、やるべきことをやっている選手ですね」 井上兄弟や中谷の最近のファイトは、米国内でもスポーツ総合チャンネル、ESPNのケーブルで放送される。拓真は同番組で「ノックアウト率の低い世界王者」として取り上げられたことがある。 「8オンスのグローブで思い切りヒットすれば、誰でも倒れます。KOじゃなかったとしても、彼は試合に勝てる力を持っていますよ」 両陣営はWBA/WBC統一バンタム級タイトルマッチ実現の青写真を描いていたが、中谷がチットパッタナを鮮やかに下した前日、拓真は堤聖也に完敗し王座から転落。統一戦は、呆気なく雲散霧消した。 中谷は話した。 「WBAタイトルマッチは、いい試合になるだろうと思っていました。堤選手とも何度かスパーリングをしたことがありますが、気持ちのあるファイターです。この7月、試合前のLAキャンプ中に、彼も同じジムで練習していたので、6ラウンドくらいやりました。 残念と言えば残念ですが、常に流動的なのがボクシングです。どちらが勝利するか分からない部分もあったので、結果として受け入れています。新チャンピオンになった堤選手でも、IBF、WBOでも、是非やりたいです。やはり、バンタム級4団体を統一したいですね」 IBFの西田凌佑、WBOの武居由樹と、今日、バンタム級は主要4団体全ての王者が日本人となっている。しかし、実力的には中谷が群を抜いており、他の3名が中谷と対峙しても勝利する可能性は限りなくゼロに近い。 各チャンピオンを抱えるマネージャーも、大事に育ててきた自分の選手を負けると分かった舞台に上げることなど出来ない。そんな状況で対戦を望んだ井上拓真は、男を見せたのだ。 世界タイトル3階級制覇中の中谷は、チットパッタナ戦がバンタム級での3戦目となった。特に減量に苦しむこともなく、自身のパフォーマンスを遺憾無く発揮できているため、焦って階級を上げる必要はない。が、中谷の目指す「パウンド・フォー・パウンドBEST」の座に就くには、避けられない相手が井上尚弥だ。 「このところ、尚弥選手のことをイメージする機会が増えましたし、(トレーナーの)ルディ(・エルナンデス)からも『ナオヤは速いから、同じタイミングでパンチを出さないと当たらないぞ』なんてアドバイスをもらいます。一戦一戦しっかりやっていけば、いずれはと考えています。 尚弥選手は、全力で自分の人生をボクシングにぶつけていますよね。もちろん、本番のリングでも。そこをリスペクトしています」