2度目の防衛戦も圧勝…WBCバンタム級王者・中谷潤人と怪物・井上尚弥の決戦が今一番望まれている理由
日本が誇るモンスターとの試合が世界中で期待される
井上尚弥vs.中谷潤人戦に期待するのは日本人だけではない。既にアメリカやメキシコでも話題になっている。また、井上が今年5月のルイス・ネリ戦に続き、もう一度、東京ドームを満員としたいのであれば、相手は中谷以外に考えられない。プロモーターは、是が非でも実現したいだろう。 それがスーパーバンタム級になるのか、あるいはフェザー級になるのか。いずれにしても、日本ボクシング界において最大規模のメガ・マッチとなることは間違いない。だからこそ、両者がベストコンディションで対峙する環境作りが不可欠だ。スーパーバンタム級での開催なら、中谷に122パウンド(55.34kg)で最低2戦のチューンナップをさせるべきだ。 ただ、実は中谷の最終的なゴールは、井上尚弥に勝つことでも、パウンド・フォー・パウンドKINGになることでもない。彼は、もっと遠くを見詰めている。 「中学1年生でボクシングを始めてから、強くなりたい、いいボクサーになりたいと思ってやってきました。その結果が、今のところ3階級での世界タイトルですが、あくまでも後からついてきたものです。 強さを求めていくと、自身と語り合うことになります。次第に自らに求めることが大きくなっていきますよね。いつも、己に勝たねばならない。僕は、自分に期待している部分があるので、毎日自己との対話があります。 練習中、当然のように苦しい局面が訪れます。そんな時、『やれるのか?』とか、『こんなところで終わるのか?』という声が、体の内部から聞こえてくるんですよ。それが無ければ強くなれないし、乗り越えることを楽しめている自分がいます」 確かに、中谷のトレーニングはとことん己を追い込む。常に120パーセントを出し切る姿勢は、決してブレない。それが戦いぶりにも表れている。
快進撃を続ける若き怪物
「自分を超え、常に新しい中谷潤人と出会う。目の前の目標を達成しても満足はしないし、その瞬間から次の課題が出てきます。結局、最大のライバルは自分自身です。そして、究極の目標は自分を作ることなんですね。統一戦、井上尚弥戦、パウンド・フォー・パウンド1位というのは、その過程にあるものです」 筆者は、チットパッタナ戦に向けたLAキャンプ中にこの発言を聞いた折、中谷潤人を形成する核に触れた気がした。彼が心から達成感を覚えるのは、リングを去るその日まで無いだろう。そう告げると、中谷は微笑み、言葉を繋げた。 「初めての世界戦は、コロナの影響でなかなか試合ができなかったんです。辛い時期でした。でも、そんな状況を味わえるのは、僕しかいないじゃないですか。世界タイトルをやれることは決まっていましたから、楽しんでやろうと考え、ポジティブな気持ちにもっていきました。僕はボクシングが好きですし、根本的に楽しめています」 15歳の頃からの付き合いで、10月14日は中谷の前座に出場したWBOフライ級チャンピオン、アンソニー・オラスクアガもWBCバンタム級チャンピオンのハートに舌を巻く。 「技術、ボクシングIQは言うまでも無いけれど、自分を律して懸けている姿勢が本当に凄い。とても影響されているよ。お手本だよね。あんなにメンタルの強い人間って、他に知らない。ジュントがいたから俺も世界チャンピオンになれた。彼と同じチームにいられる幸せを、日々実感しているんだ。 ナオヤ・イノウエ戦はタフなファイトになるだろう。イノウエにはスピードがある。一方、ジュントはタイミングがいい。パワーもある。勝つと信じている」 2015年4月のデビュー以来、戦績を29戦全勝22KOとした中谷潤人。WBCバンタム級チャンピオンはまさに周囲を照らし、上りゆく朝日のようだ。今日は己とどんな会話をするのか。そして、次戦ではどんな戦いを見せるのか。
林 壮一(ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属)