6話考察『海に眠るダイヤモンド』「好きだ」と告白する鉄平(神木隆之介)
またも名シーンの誕生、鉄平から朝子への告白
時間をかけてとうとうできあがったらしい土を島民にくばる様子。いつもどおり気位高く振る舞いながらも陰に日向に朝子と鉄平を支えてきた百合子が「私の役目は終わったなあって」と鉄平に話した直後、賢将がやってきて百合子に指輪を渡す。いちど結婚したら離婚できないカトリックの百合子、長崎で被爆して家族を作らないと決めていた百合子。それを全部わかったうえで一緒にいることを選ぶ賢将。 「私の人生、手強いわよ」「俺はタフだよ、百合子がいれば」 の会話が二人らしい。 一方、秘密を共有したリナ(池田エライザ)と進平(斎藤工)は子どもを授かる。 「今の幸せの下にはたくさんの犠牲がある、……のかなあって」 と、海の下にあり、植物の死骸から作られたという石炭になぞらえて、海に沈めた追っ手のことを言うリナ。戸籍を取りに行くこともできないため、進平とは内縁関係だ。進平の両親に対する罪悪感を抱えながらも、無事男の子が生まれた。 そして、鉄平と朝子。賢将と百合子の結婚式の片付けをしながら、朝子のストの原因を聞いたことをきっかけに、鉄平は「朝子が好きだ」と告白する。 賢将が百合子に告白したシーンは、ぐっと二人にカメラが寄っていた。その後のリナの出産シーンでは、ふすまごしに進平が汚れた顔を覗かせる構図が印象的だった。そして、鉄平の告白は、カメラがやや引き気味の状態で始まる。海に囲まれた端島の突端。その景色の中にいる二人。ところどころ、決められたセリフとは思えないように引っかかったり言い淀んだりしながら話す神木隆之介。それに、やはりこのとき初めて聞いたかのような表情と相槌を返す杉咲花。またもこのドラマに屈指の名シーンが生まれた。
「朝子ちゃん」呼びに照れるいづみ
告白された朝子が右手で左の髪を触る仕草は、冒頭で現代のいづみもやっていた。玲央(神木隆之介、二役)から「朝子ちゃぁ~ん」と『ルパン三世』のようにふざけて呼ばれても、「その顔で朝子だなんて」と照れるいづみ。50年を経て、コスモスが咲いたときのいづみの笑顔が、朝子に重なる。 けれど、閉山の写真にはすでに鉄平がおらず、いづみは「私も知らないの、彼が、鉄平がどうなったか」と言う。端島の鉄平に、何があったのだろう。いづみは鉄平の日記をなぜ、どうやって「今年の春に手に入れた」のだろう。端島や鉄平に興味を抱きつつも「誰かを好きになるとかさ、全部ウソじゃん」という玲央にも、救いはあるのだろうか。 朝子に告白した日の鉄平は、「端島はもっとよくなる」と言っていた。この時期、「もっとよくなる」の思いは、日本全土を覆っていたことだろう。東京オリンピックを翌年に控えた端島は人口5000人を超え、正月は賑わっている。けれど、「よその炭鉱が閉鎖に追い込まれた中、端島は変わらずに毎日を過ごしている」と、終わりの予感も漂っている。 ●番組情報 日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS) 脚本_野木亜紀子 演出_塚原あゆ子、福田亮介、林啓史、府川亮介 プロデュース_新井順子、松本明子 出演_神木隆之介、斎藤工、杉咲花、池田エライザ、清水尋也、土屋太鳳、宮本信子 他 音楽_佐藤直紀 主題歌_King Gnu『ねっこ』 U-NEXTにて全話配信中(有料) ●釣木文恵/つるき・ふみえ ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
GINZA