悲劇を繰り返さないために観ておきたい ボスニア紛争を描いた映画5選
時と記憶を超えゆく壮大な旅路に、魂が震える!『ユリシーズの瞳』
巨匠アンゲロプロス監督が描く、魂が震えるほどの詩情に満ちたオデッセイ。20世紀初頭、マナキス兄弟によってギリシアとバルカン半島で史上初めて撮影されたという記録映像には、3巻分の未現像のフィルムが残されていたという。高名な映画監督(ハーヴェイ・カイテル)は行方の分からなくなったフィルム=最初のまなざしを追い求めて、母国のギリシアから車や列車や船を乗り継ぎ、その果てに戦火のサラエヴォへと足を踏み入れていく……。 【深掘り考察】映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が描くアメリカの黒歴史とは? 90年代半ばに勃発したボスニア紛争から着想を得た本作には「なぜ人類はサラエヴォから何も学ぼうとしないのか」という問いかけが刻まれている。かつてこの地で起こった暗殺事件をきっかけに大戦が起こり、そしてまた20世紀の最後にも巨大な悲劇を生んだこの地。翻って我々は、日々のニュースが戦争やその爪痕について触れないことがなかった“2023年”へのまなざしを、未来への教訓として繋げていけるだろうかーーー。年の瀬に、そう自身に深く問わずにいられなくなる作品である。
あらゆる暴力と戦争にNOを突きつける骨太作!『ノー・マンズ・ランド』
あたりに深い霧が立ち込める中、慣れない道をボスニア軍兵士たちが進む。しかしいざ霧が晴れて周囲を見回すと、そこは敵のセルビア軍から丸見えの戦場ど真ん中。主人公チキはすかさず中間地帯の塹壕へと飛び込むが、そこへ偵察にやってきたセルビア兵士ニノと鉢合わせしてしまう。互いに銃を突きつけ合うも埒が開かず、二人はいがみ合いながら事態打開を目指すのだが……。 戦場の中間地点で敵兵どうしが“一対一”の人間として向き合う本作は、戦場の現実や人間の本質を深く浮き彫りにし、カンヌ映画祭脚本賞やアカデミー賞外国語映画賞の受賞をはじめ世界の称賛を獲得。タノヴィッチ監督は紛争の最中、軍に従軍して最前線で300時間に及ぶ記録映像をカメラに納めた経歴を持つ人でもある。戦場の実態を目の当たりにした彼が描く作品だからこそ、敵味方の立場や善悪二言論を超え、あらゆる暴力にNOを突きつける叫びがより切実に伝わってくる。そして何より、世界の無関心や事なかれ主義を凝縮したかのような皮肉な結末が、深く胸に突き刺さる。