ユダヤ迫害の記憶、アプリで継承 「つまずきの石」伝記ひも付け 右派台頭で重要度増す・独
ナチス・ドイツの犠牲となったユダヤ人の住居前の路地に敷設され、迫害の記憶を思い起こさせる真ちゅう板「つまずきの石」を、スマホアプリと連動させる取り組みがドイツで広がっている。 【写真】インタビューに応じるシュレスウィヒ・ホルシュタイン州のクリスティアン・マイヤーハイデマン州政治教育委員 被害者の伝記を読み取れたり、アプリ上の仮想現実でろうそくをともしたりできる。2025年は第2次世界大戦終結から80年。関係者は「あと数年で直接の語り手はいなくなる。記憶の継承には新たな方法が必要だ」と話している。 北部シュレスウィヒ・ホルシュタイン州キールの閑静な住宅地。「ウィルヘルム・シュピーゲル 1876年生」と刻まれたつまずきの石には、市議会議長を務め、1933年に殺害されたとある。ここにアプリのカメラをかざすと、ナチスに異を唱えたシュピーゲル氏がこの場で銃殺されたという文章が表示された。 アプリを発案したのは同州で若者への民主主義啓発などに取り組むクリスティアン・マイヤーハイデマン州政治教育委員(44)。「一人ひとりの物語がこの問題を具体的なものにする」と考え、IT事業者と共に地域に眠っていた伝記を収集し、位置情報とひも付けた。アプリ内でろうそくを供えると、7日間はそこを訪れる別の人のアプリ画面にも灯火が映る仕掛けも加えた。 2023年11月、キールと隣町レンズブルクでアプリの稼働を開始。これまでに州全体とブレーメン市(州と同格)の1700カ所以上をひも付けた。25年1月下旬からはメクレンブルク・フォアポンメルン州に範囲を広げ、最終的にドイツ全体を網羅する構想だ。 ブレーメンでは学校配布のタブレット端末10万台全てにアプリを導入し、教材に使う。同市の政治教育担当者は、ナチスとの思想的な近さも指摘される極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を念頭に、「右派ポピュリズムの台頭を考えると、かつてないほど重要な取り組みだ」と強調した。 600万人という途方もない犠牲を出したホロコースト(ユダヤ人大虐殺)について、「アウシュビッツ強制収容所のガス室から始まったわけではない」とマイヤーハイデマン氏。つまずきの石は、ホロコーストが隣人に起きた身近な出来事だと警告している。