息子2人育てる障害のある夫婦「どう思われるか不安」保育園の保護者には障害打ち明けられず #令和の子 #令和の親
▽職員たちは無事にできるかを「つかず離れず」で見守る
2018年3月、聡恵さんは長男の陽飛君を出産した。優しい、お日様のような子になってほしいと名付けた。グループホームは制度上、子どもの入居を想定しておらず、対象は「原則18歳以上」と定めている。入居者が出産した場合、子どもとの同居が認められず、やむなく乳児院に預けるケースもある。UCHIは一家が家族で暮らせるようにして支援した。ただ、職員たちは相談に乗ったりはするが、子育てはあくまで聡恵さんたちに委ねた。グループホームを出ても自力で育てられるようにするためで、あくまで職員たちは無事にできるか見守る「つかず離れず」の関係だ。 聡恵さんの子育ては、UCHIの入居者仲間の先輩ママが手助けしてくれた。ミルクの温め方や子どもの体調のことなど、毎日のように相談した。聡恵さんは「周囲に助けてもらった。障害者だから子育てができないということはない」と振り返る。 陽飛君が3歳の時、2人目を妊娠。担当職員だった滝下さんは前回と同様に「育てられるの?」と覚悟を確かめた。以前は自分の考えを話せなかった聡恵さんだが、今度は「障害者だから産んじゃいけないの?」と訴え、「本当に強くなった」と滝下さんを驚かせた。22年6月、次男の颯太ちゃんを出産した。
▽「子どもたちのため、自分も変わらなきゃいけない」
陽飛君の食事は冷凍食品ばかりだったが、颯太ちゃんの出産を機に、聡恵さんは料理をするようになった。料理を想像して材料をスーパーで買うのはできない。だが、スマートフォンの料理アプリが示す材料を買い、レシピどおりに調理することはできる。最初は野菜の分量を間違うこともあったが、どんどん料理の腕は上達し、今では親子丼やグラタンなどレパートリーは多彩で「ママの料理はおいしい」と守さんも太鼓判を押す。 守さんは飲み過ぎだったお酒の量を控え、家事も積極的にやるようになった。「子どもたちのため、自分も変わらなきゃいけない」と話す。2人とも、子どもたちの成長が何よりうれしい。陽飛君はやんちゃだが優しく、颯太ちゃんの出産で入院した聡恵さんに自分で摘んだ花をプレゼントした。 聡恵さんは衣料品店で商品補充や接客をし、守さんはクリーニング工場で働く。夫婦で子どもの保育園への送迎や家事をし、時には家族旅行も楽しむ。 UCHIの職員たちも「聡恵さんは子育てを通じて変わった」と口をそろえる。思ったことを言えなかった以前とは異なり、周囲とのコミュニケーションも上達。子どもが発熱した際も、聡恵さんは職員に連絡しながら自分で通院などの手配をする。知人や友人も少なくなく、2023年秋に転職のためUCHIを離れた滝下さんとも、連絡を取り合い続けている。
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