息子2人育てる障害のある夫婦「どう思われるか不安」保育園の保護者には障害打ち明けられず #令和の子 #令和の親
▽「育てられませんでした」では許されない、厳しい言葉で覚悟を確かめる
「頭の整理ができない。頭が真っ白」。当時のUCHIの面談記録には、聡恵さんが混乱している様子が残っている。聡恵さんはコミュニケーションが苦手で、思ったことを口に出せない。守さんは「今のお金じゃ厳しい。でも産んでほしい」と訴えていたが、聡恵さんは「みんなに何と言われるだろう。自分は子育てできるだろうか」と不安もあった。 当時、UCHIの職員で聡恵さんを担当していた滝下唯奈さん(32)は、妊娠を報告した聡恵さんと守さんに、「現状では認められない。出産後に『育てられませんでした』は許されないから」と伝えた。UCHIでは入居者の出産の意思を尊重しているが、一方でその覚悟も真剣に確認する。子育てをするのはあくまで当事者たちだからだ。「2人の気持ちが『産みたい』でも『諦める』でも、まずは否定して覚悟を確かめたい」という思いから、あえて厳しい言葉を選んだ。 友人の紹介でUCHIの職員となって3年目だった滝下さん。障害者福祉の仕事は初めてだったが、担当になった聡恵さんとは恋愛や仕事のことをたくさん語り合い、職員と入居者というより姉妹のように仲が良かった。だからこそ、本音では妹のように感じている聡恵さんを素直に祝福できず、つらかったという。 聡恵さんの障害の程度は、会話や行動からはすぐに分からないほど。だが滝下さんは接するうち、独力で物事を決めるのが苦手で、相手の顔色を見て合わせてしまうことに気付いた。他人の言葉にすぐ流されてしまう彼女に、子どものしつけができるだろうかと心配もあった。
▽泣きながら「おろした方がいいのか」悩んだ日々
聡恵さんと守さんはそれぞれ深く考えるため、いったん同棲をやめて別々に暮らし始めた。聡恵さんは毎晩のように「おろした方がいいのか」と悩み、布団で何度も泣いた。 聡恵さんは何日も悩んだ末に「一度宿った命。おろすことはどうしてもできない」と決意した。聡恵さんは滝下さんに「職員としてではなく、同じ女性として答えてほしい」と訴えた。滝下さんにとって聡恵さんがこれほど自分の意思を強く訴えたのは初めてで、思わず「私があなたの立場だったら産みたいと思うよ」と本音を口にした。 UCHIでは滝下さん以外の職員も含め、聡恵さんと守さんとの面談を重ね、出産の意志が固いことを確かめた。支援することを決め、2人は結婚。それぞれの職場の上司や市のケースワーカーを集めた会議も開かれ、出席者からは「おめでとうと心から言えない」と厳しい言葉もあったが、最後は支援することで話がまとまった。
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