男児の遺族は「ひどい病院と見抜けなかった」と後悔した…神奈川県立病院で「救えた命」が失われるまで
■温泉などで発生するレジオネラ菌が発生 そこで、県の医療部門担当の副知事に対し、こども医療センターの医師らが衛生用品不足を何とかしてもらいたいと直訴する機会を設けた。その結果、副知事の努力もあり、少しずつ在庫も増えて「ノーマスク、ノーエプロン、ノー消毒液」という状態は避けることができた。 こういった基礎的衛生用品の在庫管理などに代表される衛生管理能力の欠如が、直後に発生した院内レジオネラ肺炎(※1)やCRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)伝播の遠因になったと指摘せざるを得ない。 ※レジオネラ菌で汚染された水しぶき、噴射水、散布霧からエアロゾルを吸い込むことで感染する。高齢者や小児が感染すると死に至ることがある。レジオネラ菌は給水・給湯設備、冷却塔水、循環式浴槽、加湿器などに検出される。 この時点でまず、こども医療センターの危機管理体制の不十分さと機構本部の統治能力の欠如が問題視されるべきだった。しかし、社会全体が衛生用品の不足に悩まされていた時期と重なったので、県からは見過ごされてしまった。 ■保健所に報告すべきところ、院内で“隠蔽” 2020年8月、こども医療センターで、業者の定期検査によりレジオネラ菌が検出された。レジオネラ菌が検出された場合、直ちに保健所に報告することが求められているのだが、病院内部の会議で届け出もせず事実を隠蔽することが決定された。なんという不誠実な態度だろう。 その結果、翌2021年2月にレジオネラ肺炎が発生し、生後6カ月の幼児が呼吸障害で生死の境をさまよう事態に陥った。この時はさすがに保険所に届け出たが、機構本部に詳細を報告せず、県議会にも報告しなかった。 こども医療センター内だけで解決しようと、看護師や職員が招集され、水道管に熱湯を流し入れるレジオネラ菌対策が指示され、看護師たちが手指に熱傷を負うことになった。あまりに幼稚な対応が行われていることを把握した私は、当時の機構理事長に直接連絡をした。 詳細を全く知らなかった理事長は、早速こども医療センターに乗り込み、ハード対策に熱心に取り組み始めた。しかし、ソフト対策は後回しにされた。 つまり、こういう状況を引き起こした当時のこども医療センター総長・病院長をはじめとする幹部たちの責任は何ら問わず、建物の老朽化や建て増ししたための複雑な給湯経路などを原因にあげつらい、給湯設備の改修に予算を捻出しただけだったのだ。