「トランプ関税」が米国経済に与える影響【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】
本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。
●米CNNはトランプ氏が全世界一律の輸入関税導入に向け緊急事態宣言を検討していると報道。 ●CBOはトランプ関税が実現した場合、財政赤字縮小、経済規模縮小、物価上昇の試算を公表。 ●対中関税はデカップリング政策の一環で40%に引き上げの可能性、ただ一律輸入関税は回避か。
米CNNはトランプ氏が全世界一律の輸入関税導入に向け緊急事態宣言を検討していると報道
米CNNは1月8日、トランプ氏の政権移行チームが、1977年に制定された「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づく緊急事態宣言を、一律輸入関税導入の法的根拠とすることを検討していると報じました。トランプ氏は大統領就任後、中国に60%、全貿易相手国に10~20%の輸入関税をかけることを公約に掲げていたため、さまざまな手段を模索している状況にあると推測されます。 トランプ氏にとって、関税の引き上げは、貿易相手国に対する強い交渉材料であるほか、関税収入の増加要因(関税は米輸入者負担)となります。一方、輸入者が関税の引き上げ分を輸入価格に転換すれば、輸入物価の上昇を通じて国内物価が上昇する恐れがあり、また、貿易相手国が米国に対し報復関税を課せば、関税の引き上げ合戦となり、世界的に貿易が停滞するリスクも高まります。
CBOはトランプ関税が実現した場合、財政赤字縮小、経済規模縮小、物価上昇の試算を公表
このように、トランプ氏の関税引き上げ策は、米国経済にとって良い面と悪い面を持ち合わせていると考えられますが、米議会予算局(CBO)は2024年12月18日、トランプ氏が公約に掲げた中国製品への60%の関税と、そのほかの国・地域への一律10%の関税が実現した場合の試算を公表しました。具体的には、予算と経済(実質GDPと物価)への影響および分配効果についての見解が示されました(図表)。 CBOは、ベースラインの予測との比較で、予算は2025年から2034年の会計年度にわたって2.7兆ドルの赤字が削減され、2034年の実質GDPは0.6%減少し、個人消費支出(PCE)物価指数の水準は2026年までにおよそ1%上昇するとの結果をまとめました。また、関税の変更によって、外国為替市場で米ドルが増価するため、米国が保有する外国資産のドル建て価値が減少する可能性が高いと指摘しました。
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