勝田貴元が見せた高速グラベルでの復調の兆し。初コースで“レッキ1.5倍”の影響/WRCラトビア
「クルマが前回のラリー・ポーランド以上にすごくよくなって、ストレスなく気持ちよく走れていたと思います」 【写真】復調の走りを見せる勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1) 7月18日(木)から21日(日)に行われた2024年WRC世界ラリー選手権の第8戦『ラリー・ラトビア』を総合6位でフィニッシュした勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1/TOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチーム)は、大会後に日本のメディア向けに開いたリモート取材会でそう語った。 というのも、6月末に行われた第7戦『ラリー・ポーランド』では、持ち込みのセットアップを外してしまったことからペースを見いだせず、首位から約2分半遅れの総合8位という悔しい結果に終わっていた。 ■苦戦したコンディションでの大きな改善 そこから3週間、チームとミーティングを重ねた勝田は、「あまりナーバスな感覚もなく、すごく自信を持って入れたので、トップとも差がない状態でラリーをスタートできました」と、課題となっていた大会序盤のフィーリングを口にした。 「ステージは、前回のポーランドと似たようなハイスピードなところが多かったです。ですので、まずは前回のポーランドでの反省点を活かして、クルマのセッティングを外すミスをしないようにしっかりとミーティングを重ねてきました」 「とくに路面の特徴として、ルーズな部分や細かな砂利がハードな土の上に浮いているような状態の部分が多く、そこがどうしてもアンダーステアを生んでしまう原因となっていてかなり難しかったです」 「ですが、今回は同じような路面でもかなり大きく改善していたので、自分としてはずっと気持ちよく乗れました」 こうしてマシンに好感を抱いた勝田は、2度の2番手タイムを刻むなど序盤からコンスタントにトップ5のタイムを刻み続け、チャンピオンのカッレ・ロバンペラ、セバスチャン・オジエ(ともにトヨタGRヤリス・ラリー1)と、地元出身で同ラリーの制覇経験もあるマルティン・セスク(フォード・プーマ・ラリー1)に続く総合4番手につける。 今回のようなハイスピードのグラベル(未舗装路)ラリーでは、ペース差が生まれづらいため、少しのミスが徐々に積み重なって結果に響いてしまう。小さな遅れも命取りになるため、勝田はとくに攻めの走りを重視してデイ2を走り抜いた。 マシンも復調、序盤の攻め方としても「まだ表彰台も射程圏内」という好位置を確保する良い流れに乗れていた勝田。しかし迎えた土曜日には、総合6番手から猛追してくるオット・タナク(ヒョンデi20 Nラリー1)とポジションを争い、トップ3台を上回るペースでバトルを繰り広げるなかでミスを犯してしまった。 「土曜午前中最後のステージ(SS12)で、設置されたシケインでオーバーシュートをして、(路肩の)木にパワーステアリングシステムを冷却するラジエーターが当たってしまい、パワーステアリングがなくなってしまいました」 「そのステージで50秒ほどトップから遅れてしまって、大きく順位を落としてしまいました」 「本来、オーバーシュートしただけなら5秒から7秒ほどのロスで済んだはずでしたが、運悪くラジエーターに当ててしまったことによって大きなタイムロスになってしまったので、そこはちょっと残念でした」 「自分のミスですし、その後は何とか取り返せるようにという思いで走りました。ペースはその後も悪くなかったと思いますし、その分悔しい思いもありますけれど、つねにギリギリのところで戦っているので、『仕方ない』と切り替えて走りました」 ■初開催ラトビアでの異例なステージ構成 こうしたミスの種となる要因として、勝田は初開催WRCラトビアで構成された例外的な大会行程に不安を抱いていたという。 「そもそも、初めてのコースでどんなタイムが出せるのかな、どんなラリーになるのかな、という想いがありました」 「そういった不安があるなかで、今回は他のラリーと違った特徴的なアイテナリー(大会行程)が組まれていました。基本的にWRCの大会は、午前中に3本か4本のステージを走り、その後に同じステージをもう1回リピートするという流れが多いのですが、今回は1回しか走らないというステージが非常に多く、1日の中でリピートのステージは1個あるかないかというような行程でした」 「また、なかには2、3キロだけ同じセクションを走って、その他は新しい区間、といったような特徴的なステージ構成もあったりしたので、その分レッキ(大会前の確認走行)をする区間がいつもの1.5倍ぐらい多かったです。そのチェックは結構大変で、かなりストレスフルでした」 基本的にラリー中の前日準備としては、3~4区間分のペースノートや車載映像をコドライバーとともに確認を行うが、ミスが起きたデイ3のためには、7区間分の事前情報を確認する必要があった。 この負担が直接今回のミスに繋がったという直接的なコメントはなかったものの、過去には勝田の“師匠”でもあったタナクを相手にするには、経験の差が生まれやすい図式であったとも言える。 初のパワステなしラリー1マシンで何とか残り区間を走り切り、以降は最終日のパワーステージにターゲットを切り替えた勝田。迎えた最終SS20では選手権首位のティエリー・ヌービル(ヒョンデi20 Nラリー1)と十分の一秒まで同じタイム表示となり、最終的にはさらに細かい差によって4番手タイムとなった。 それでもトップタイムのタナクや、続くオジエ、ヌービルといった今季のウイナーたちと僅差の4番手タイムとあり、前戦ポーランドでの不調を振り払うという課題は確実にこなせた一戦だったのではないだろうか。最後に勝田は、ホームラウンドとなる次戦ラリー・フィンランドへ向け、次のような意気込みで締めた。 「今大会では、次のラリー・フィンランドに向けても本当に良いステップが踏めました」 「チャレンジプログラムが始まったときからトレーニングをさせていただいていたフィンランドで、今の自分が持っているポテンシャルを発揮して、表彰台はもちろん、トップ争いをしっかりと展開できるように最初から攻めていきたいと思います」 [オートスポーツweb 2024年07月28日]