『市子』戸田彬弘監督×杉咲 花 ロケハンに俳優が同行する意義とは?【Director’s InterviewVol.376】
演技優先の撮影
Q:日本映画の特性として、1カメという都合上、アングルを変えて同じお芝居を撮ることがスタンダードであり、そこに対する難しさや考え方がお二人の中で似ていたとのことですが、実際の撮影はいかがでしたか? 戸田:お芝居ってそんなに何度も出来るものではないと思っています。市子はすごく重たいシーンを何個も抱えていましたし、杉咲さん的にも最初に撮るのが一番ノリやすいですよね? 杉咲:そうですね。新鮮に受け止めやすいです。 戸田:というのは聞いていたので(笑)、まずそういう重いシーンの撮影時に杉咲さんに相談し、狙いのアングルの撮るタイミングを決めていきました。また、 “市子を追っていくためのカメラワーク”という演出だったので、そうして人物を撮ることを考えると、2テイク目は難しいんじゃないかと思います。 杉咲:現場からは「この瞬間を捉えなければ」という気迫を感じました。すごくありがたかったですね。自分自身、集中力やテクニカルなものが絶望的に無いタイプだと思っているので…。ただただそこで起こることを真実として受け止めていくことしか出来ない。そうなってくると再現ってすごく難しくて。そういった理屈が通らない場合ももちろんあるとは思うのですが、近しい感覚でいてくれる方が中心に立っている今回の現場は、本当にありがたく恵まれていたなと。 戸田:それを理解してくれた撮影部や照明部、録音部がいてくれたおかげでもあります。普通は照明が逆転したりすると時間が掛かるので、セッティング優先で撮影が進むことが多いんです。今回は演技優先で撮影できて、とても良い現場でした。
ロケハンから同行した杉咲花
Q:映画は様々な時代を交錯する構造になっていますが、時代ごとの市子の変化はどのように作られたのでしょうか? 戸田:可能な限り市子の年表通りに撮っていったので、杉咲さんのクランクイン前に市子の少女期を撮りました。杉咲さんはその時から現場に来てくださっていて、少女時代の市子役の芝居を見てくれていました。また、映像的なことで言うと、撮影監督の春木さんからのアイデアで、全体的に画をほんの少し縦長にするという手法を採用しました。それで若い頃のニュアンスに少し変化が出来たので、高校時代はその方法で撮影しています。それ以外は基本的にはあまり変化はつけてないですね。年齢によって芝居のニュアンスを変えるようなことも言いませんでした。 杉咲:事前に市子の年表をいただいていたので、そのときの市子の現在地みたいなものを把握できていました。年齢による変化を意識するというよりは、対峙する相手によって市子の態度が自然と変わっていくような感覚でした。 Q:市子の子役時代の撮影に立ち会われたとのことですが、そういうことは普段もよくあるのでしょうか。 杉咲:機会をいただければ見ておきたい気持ちがあるのですが、現実的に叶わないことが多いです。そんななかで、今回は随分と早い段階で和歌山に入らせてもらえたので、ありがたく拝見しました。撮影に立ち会うことによって、はっきりと何かが変わることはないかもしれないけれど、演じる自分自身の中で何かが作用していたらいいなという気持ちがありました。 戸田:そういった杉咲さんの姿を見て、子役の市子ちゃんも何度か杉咲さんの芝居を見に来たんです。それってすごく良い影響だなと。 また、今回杉咲さんはロケハンも同行してくれたんです。その人物が育った場所がどういう環境で、どんな空間だったのかというのは、役にとって一番大事なこと。だから僕としては、メインのロケハンはそこに大きく関わる俳優さんも一緒に行きたいと思っているんです。以前、僕がメイキングとして入った現場で、1日だけ樹木希林さんが来られた日があったのですが、希林さんは家に馴染もうとする作業をずっと現場でされるんです。 杉咲:そうなんですね!︎ 戸田:そう。畳でゴロゴロして、「この辺で私はお茶を飲むな」とかブツブツ言いながら家の中を歩き回っている。やっぱり馴染むことが全てのように思えますね。杉咲さんも、家の中でゴロゴロしたり、ベランダでぼうっとしたりしていましたよね。 杉咲:そうですね。撮影の合間にアパートのベッドで昼寝をした日があったのですが、驚いたマネージャーさんに「花さん!」と叩き起こされました(笑)。
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