スバル「インプレッサ」に見るスポーツハイブリッドの未来
「水平対向」は生き残れるのか?
夢を打ち砕くようで申し訳ないが、21世紀中盤に向けてエンジンの未来を考える時、水平対向には課題が多い。ヘッドもシリンダーブロックも2セットあり、カムシャフトに至っては4本ある。スバルはカムシャフトを中空にしたり、コンロッドを特殊な形状にしてブロック丈を抑制したりとネガを消すべく心血を注いているが、重量でも摩擦損失でも不利な上、表面積が増えるためどうしても熱損失も大きい。V型エンジンも同様の問題があるが、あちらは主に大排気量用で効率追求はほどほどでいい車種に搭載される。 フリクションの低減と気筒あたり排気量の適正化に効果がある3気筒化など、奇数気筒への対応も難しいし、何よりも地面と干渉して排気系の取り回しの自由度がないに等しいから、高効率エンジンを目指す上では色々と難しい形式なのだ。 水平対向には回転フィールや音など、個性と魅力を感じる部分も多いが、これらの課題を解決できなければ、いずれスバルが水平対向を廃止せざるを得ない日が来るかもしれないのも事実だ。
スポーツハイブリッドとはどんなものか?
さて、そうした様々な制約の中で成立したハイブリッドシステムが「スポーツハイブリッド」と名付けられているのは何故だろう。「たった13.6馬力のモーターでスポーツもないもんだ」と思う人が多いのではないか? もちろんスポーツの定義は人それぞれだろう。「ハイパワーこそスポーツ」という人に反論する気はないが、精度を上げて緻密にしていくこともスポーツの一つの形だと思う。 思い出すのはフェラーリのハイブリッドシステムだ。2010年のジュネーブショーでフェラーリはイメージカラーを覆すグリーンのハイブリッド・コンセプトモデル「599HY-KERS」を公開した。フェラーリのハイブリッドシステム「HY-KERS」はちょうどインプレッサのハイブリッドと同じ様に縦置きエンジンのトランスミッションに組み込まれたハイブリッドシステムだ。 2モーターを搭載するこのシステムは、599のV型12気筒620馬力に100馬力を上乗せする。後にミッドシップ用に変更され「ラ・フェラーリ」に搭載されてフェラーリ初のハイブリッドとして市販された時にはアドオンは163馬力とアナウンスされた。 「インプレッサと違ってモーター出力が大きいじゃないか」と言われそうだが、大事なのはそこではない。革新的なのはそのモーターの使い方だ。エンジンはスロットルオフから加速に移る時、操作に対して変化が遅れ、さらに出力変化が唐突に起きる。理系の人には「非線形領域がある」と言った方が早いだろう。 この時、タイヤはその性能を試される。油断している時にエンジンに急にドンと押されるようなもの。うっかりすれば滑る。しかしこの過渡域をミリセコンドまでコントロールできるモーターで橋渡ししてやれば、美しいサインカーブも完全な比例直線も思うがままに得られる。 つまり内燃機関が生まれながらに持っていた「がさつさ」という欠点をモーターを使うことで丁寧に取り払ってみせたのだ。さらに、モーターのエネルギー回生を積極的に姿勢制御に使い、そのレベルを圧倒的に向上させた。