「それ、わざわざプリントしなくてよくない?」いつまでたっても「会社のムダ」がなくならない理由
『わざわざ出力主義』……ペーパーレスがどうも信用できなくてすべて紙に出力して保存しないと気が済まない。 【会社のムダ】「あれっ、元に戻ってない?」共有した文書をみんなで勝手に修正した結果…… 『属人化の甘い罠』……ある人が1つの作業を独自の手順で進めてしまうために、その人に任せているうちは問題ないが、その人がいないと誰もその仕事に手がつけられない。 『情報迷子』……確かに保存したはずのデータが、必要なときにどこを探しても見つからず捜索に多大な時間を要してしまう。 このような会社にはびこっている〝ムダ〟をこれでもかと集めた『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』(クロスメディア・パブリッシング)には、そんな〝ムダ〟を解消するためのヒントも書かれている。〝ムダ〟はなぜ生まれるのか。著者は合計10万部超を売り上げた『職場の問題地図』シリーズで知られる業務コンサルタントの元山文菜氏。元山氏に会社の〝ムダ〟はなぜ生まれるのか、どうすれば〝ムダ〟はなくなるのかについて聞いてみた。 元山氏によると、〝ムダ〟が生まれる背景として、テクノロジーの進化によって近年業務はどんどん複雑化、高度化していて、仕事そのものが増えていることがあるという。 「勤怠管理システムで言うとこれまではタイムカードをガシャンってするパターンが多かったですけど、その場合、ガシャンってしたカードを誰かがエクセルなどに転記したり、時間数を電卓で計算してそれを申請するという流れでした。これは、作業としては大変なんですけど業務としては、単純なんです。 現在の勤怠管理システムでは、 人間がやっていた単純作業が自動集計されて、分析までしてくれるようになっています。このように勤怠管理や営業管理など業務の根幹をシステム(orソフトウェア)がやってくれるので単純作業がなくなってきています」 それまで集計作業をしていた人の仕事は、システムが集計した結果をどう解析して人事や営業戦略に活かすのか、システムをどう使いこなすのかというような、高度なものになったという。 「例えばAさんはこれだけ働いているのに業績は上がっていないとか、逆にBさんが労働時間は少ないわりに業績を上げていれば、Bさんってどういう仕事の仕方をしているんだろうというところを分析して、そのノウハウを標準化することが戦略として求められます。今までは単純に、データを計算して提出するのが仕事だったけど、 業務の根幹がシステムになると、データをどう分析して戦略化して業務を作っていくかというところが仕事になるので、仕事が難しく高度になっていくんですよ」 仕事が高度になったとしても、IT化すればエクセルに転記したり、集計したりする作業はなくなるわけで、仕事の量は減るのではないかとも思える。だが、たとえITを導入したとしても、それまでの仕事のやり方を変えない限り、〝ムダ〟が生まれるだけだというのだ。 「ITは手段(or道具)でしかないので、入れたら仕事は増えるんですよ。管理者も置かなきゃいけないし、仕事のやり方も変わる。それなのに、今までの昔のやり方をそのまま踏襲して、 もう転記する必要はない勤怠データを『ちょっと念のために』ってエクセルで保存したり、わざわざ紙で出力して押印したりというような、ITを導入したから本当はもう辞めてもいい仕事が、そのまま残っちゃっているんです。だからそのぶん〝ムダ〟が生まれることになります」 また、むやみやたらにITばかりを頼った結果、ツールが〝ムダ〟に増えてしまって、余計に仕事がややこしくなる場合もある。元山氏によると、1つの会社の中で部署によってチャットワーク、LINE、slackと使用しているツールが違っていたケースもあったそうだ。部署の中でのやりとりは便利かもしれないが、他の部署とやりとりしたいときは余計面倒だ。 さらに、適当に管理をしているファイルやフォルダも〝ムダ〟の原因となる。自分が見ても何が何やら分からなくなっているファイルやフォルダは探すのにひと苦労だ。平均的なビジネスパーソンが探し物に浪費する時間は年間150時間だという統計もあるという。それは場当たり的なマイルールでデータを管理してしまっているからだ。デジタルのデータは紙とは違って目に見えないため、場所を見失いやすい。 「ファイルを管理するときには、命名規則をつける必要があります。同じ規則のもとで同じ場所で保存する、という〝運用の設計〟が必要です。これを破ってマイルールで仕事をしたくなる気持ちは分かります。しかし、運用ルールにならって仕事をするから標準化が進み、自分じゃなくても誰かが代わりにやってくれるので、病気になっても安心して休むこともできます。結果的に日々の仕事が楽になるのです」 そうするべき理由は、単に仕事が効率的になるだけでなく、時代の流れとしてデータを活用するということが大前提にあるからだという。ひと昔前なら、自分さえきちんと仕事ができる状態になっていれば、データは好き勝手に保存していても問題はなかった。だが、現在はこれまでのやり方は通用しないと元山氏は語る。 「『データは21世紀の石油』とも表現されますが、19世紀以降の産業革命が石油に大きく依存していたように、データは現代のビジネスにおいて石油に代わる重要な資源です。 なので、会社の名前でもらったお客さんの名刺情報や、商談内容、そこで作成した資料などは、自分のものではなくて会社のビジネスを加速させるための資源なのです。個人が個人として仕事をしているとなかなかそうはなりませんが、本来であれば会社として保存しておかなければいけないものなのです」 こういったビジネスの変化についていけていない人が、実は多いがゆえに、日夜会社には〝ムダ〟が生まれてしまっているのかもしれない。 「よく分からないビジネスマナーよりも、データベースの思考とか、データを共有するときのマナーや、入力するときのマナーは、みんなが知っていて良いものです。でも、そういうのは教えられてないじゃないですか。ビジネスは変わってきているけど、人間が変われていないという気はします。 また、業務は生ものでどんどんスタイルが変わっていきます。だから、現在使っているツールが今でも使いやすいかというところに関しては、常にふり返ってチェックをしていないとダメな時代なんです。 昔は一度ポンッと新しいツールを入れたら、そのままずっと変わらずにそのシステムを使い続ければよかったけど、しんどいですよね」 時代が大きく変わっている現代だからこそ、今まで何となく続いていた仕事や昔ながらの風習など、役目を終えたものはそっと手放すスタイルが重要になっているようだ。 自分の仕事に〝ムダ〟はないか、今一度ふり返ってみる必要があるのかもしれない。
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