“お花畑”の何が悪い! 渡辺えり×ラサール石井【同世代 辛口対談】私たちの「戦争と平和」
今はSNSで『平和が大事』と訴えるとバッシングされる時代
渡辺「20年ほど前にネットの掲示板で、湾岸戦争について論争になりまして、『自衛隊の海外派遣に賛成で、自衛官が殉職するのは当たり前だ』と言う人と、じゃあ直接話しましょうということになって喫茶店で会ったことがあるんです。いかつい右翼だと思ったら電器屋の普通のおじさんで肩透かし。でも2時間話しても彼の考えは変わらなかった。昔は平和憲法を守るというのは私たちの常識だったから、そのおじさんは少数派だったけど、今はSNSで『平和が大事』と訴えるとバッシングされる時代。関東大震災で朝鮮人虐殺はなかったというのを信じ込む人たちが多くなったじゃないですか。まっとうな人たちが、かつての少数派に逆転されたんです。よく平和主義者は“お花畑”と揶揄されるけど、お花畑だって種をまき、水をやらなきゃ花は咲かない。あえてお花畑のどこが悪いのかと言いたくなります。演劇というのは“お花畑”をつくることじゃないのかな」 石井「保守派の論客といわれる人たちは、いかにうまく立ち回って現実と折り合いをつけるかに腐心しているように見えます。コストパフォーマンスもいいし、儲けも大きい。それを支持する人たちも、あんなふうに生きれば勝ち組になれるか、勝ち組の気分を味わえると思っているようだけど、僕が一番嫌いな言葉をあえて使えば『現実はそんなに甘いものじゃない』。コスパは悪いかもしれないけど私は、戦争なんかなくなって誰も死なない傷つかない世界という理想を持っている。もっとうまく立ち回れと言われても、それが自分の生き方ですからね」
自立した女性の新「白雪姫」は断固支持します
──不寛容社会、間違いを許さない社会になって、生きづらいように思います。 渡辺「昔と違って演劇界でも合理化、分業化が良しとされ、『それは私の専門外ですから』と投げ出さず、医者の『赤ひげ』のように、どんな病気やケガにもできるだけ向き合って人を助けるという感覚が、芝居にも必要だと思います。もちろん、セクハラ・パワハラは論外ですが、余白のある部分があるからこそ芝居は楽しいわけで、過度な自主規制はかえってギスギスするのではないかと思います」 石井「今年公開されるディズニー映画『白雪姫』が今、大炎上していて、予告動画を見ただけで否が6~7割。今の白雪姫は王子のキスで目覚める受け身の姫ではなく、女性として自立して、7人の小人を引き連れて王国を取り戻す話なんです。私からすればいくらなんでもそれは白雪姫じゃないだろう。女性解放やLGBTに配慮しすぎじゃないかと思うんですよ」 渡辺「私はディズニーが自立した『シンデレラ』を作った時、本当に感激しました。女性として留飲が下がったから、その自立する白雪姫も支持したいな。私たちは子どもの頃から、おとぎ話で、女性はこうあるべきだと押し付けられてきましたからね。女性は白馬に乗った王子さまが迎えに来てくれるというのをじっと待つ、みたいな。そんなおとぎ話に憧れたから、私なんかずっと王子さまを待っていて……。そうでなければ今ごろ、子ども5人くらいつくって普通のお母さんだったかもしれない(笑)。これからの若い人は男に頼らず自立していってほしいし、その意味で自立する白雪姫は断固支持します」 石井「金さえ儲かればいいという恥を知らない人が増えているのは悲しいですね。今のままでは絶望感しかないけど、それでもいつか若い世代によって揺り戻しが来ることを期待しています」 渡辺「2作品とも演劇を通して人生を見つめたものです。役者としてのラサールさんとは初めてのタッグで、ラサールさんのために新しく書いた役。空気感、存在感がすごくよくて人生観と今までの生き方がそのまま出ているのでさすがだなと思いました。そこもぜひ見てほしいと思います」 ◆「鯨よ!私の手に乗れ」「りぼん」は19日まで下北沢・本多劇場。出演=木野花、三田和代、黒島結菜、北村岳子、広岡由里子、土屋良太、桑原裕子、深沢敦、宇梶剛士、室井滋ほか。