『虎に翼』堺正章の娘・堺小春は“朝鮮”を写す鏡に 伊藤沙莉と9年来の友人であるキャリア
NHK連続テレビ小説『虎に翼』新潟編が始まって早くも3週目に入る。書記官・高瀬(望月歩)を通して、寅子(伊藤沙莉)が優三(仲野太賀)の死と改めて向き合った第16週、涼子(桜川ユキ)、玉(羽瀬川なぎ)との再会が描かれた第17週など、新潟での生活を通して寅子自身も変化していくさまが鮮やかに描かれている。『虎に翼』らしく、さまざまなキャラクターが個性を発揮しているのだ。 【画像】『あさイチ』に登場した堺小春 まだ作品のなかで大々的に取り上げられていないのが事務員の小野知子。演じるのは堺小春だ。堺は、タレントの堺正章と岡田美里の次女で、栗原小春名義で10歳の時にミュージカル『アニー』の舞台に立ち、芸能界デビュー。2007年以降、芸能活動を休止していたが、大学卒業後に「やはり舞台に立ちたい」と芸能活動を再開した。祖父の喜劇役者・堺駿二、父のタレント・堺正章と2代続いた堺の名を継ぎ、芸名を堺小春へと改めた。2015年には、舞台『転校生』に出演し、伊藤沙莉とはこの時から9年来の友人だ。 2018年には、オーディションを勝ち抜き『金魚鉢のなかの少女』で舞台初主演を務め、以降コンスタントに舞台への出演を続けている。過去には、『虎に翼』の脚本家・吉田恵里香が脚本を担当したドラマ『フォローされたら終わり』(AbemaTV)に出演したことも。 『フォローされたら終わり』では、主人公・仲村壮太郎(水上恒司、当時は岡田健史)の高校の同級生で、炎上系YouTuberの妻・梶浦美由紀を熱演。夫との浮気に気付いていないフリをして、不倫相手である高校時代の友人・ちはる(横田真悠)を利用していたことが明らかになる役柄だった。罪悪感なく相手に悪意をぶつける人間の闇をナチュラルに表現したかと思えば、ちはるを相手に激しくまくしたてるなど、大きな振り幅を見せていた。世界観に馴染み、メインキャストを引き立てることも、強い存在感を放つこともできる俳優だ。 公式サイトで『虎に翼』第18週のあらすじを見てみると、朝鮮人が容疑者となるある放火事件の裁判がキーポイントになりそうだ。小野にはかつて朝鮮人の恋人がいたことも、明らかになっている。 『虎に翼』では、これまでも時代ごとに変わりゆく日本と朝鮮の関係を丁寧に描いてきた。寅子の学友には、日本統治下の朝鮮からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)がいた。香淑が帰国間際に、“チェ・ヒャンスク”という朝鮮での呼び名を女子部の学生たちに告げるシーンがあった。これは、当時の日本が朝鮮を統治していたなかで、日本式の呼び名を強制していたことをよく表す場面だった。 香淑は朝鮮に帰国後、汐見圭(平埜生成)と出会ったのち、日本に渡り結婚。日本に渡った後は、偏見に晒されることを避けるために“崔香淑”という名を捨てて、“汐見香子”と名乗っている。日本統治下では“チェ・ヒャンスク”という呼び名を使うことができず、戦後も愛する人と平穏に暮らすために本当の名前を捨てる選択をしている。昭和初期の日本と朝鮮の関係性が、崔香淑という人物の名前や生活の変化から、リアルに感じることができるのだ。 とはいえ香淑は、汐見や多岐川(滝藤賢一)、娘の薫など、香淑自身の大切な人たちを守り、守られながら暮らすことができている。汐見との結婚で実家から勘当をされていたり、女子部時代の友人と会うことを避けたりと生きづらさはあるものの、大切な人と暮らす幸せを胸に生きているといえるだろう。 しかし、当時の日本で生きる朝鮮人や朝鮮人とともに生きていた日本人は、香淑や汐見のような人ばかりではなかったはずだ。偏見に苦しんだ者や、引き離されてしまった者もいたかもしれない。『虎に翼』で現在描かれているのは、1952年(昭和27年)。朝鮮戦争真っ只中の年代だ。朝鮮人が放火事件の容疑者として裁かれる裁判を通して、当時の日本人が朝鮮人にどんな印象を持っていたのかが、描かれるだろう。 これまで、第16週、第17週と新潟地家裁三条支部の良きサポート役として、新潟編の空気作りに一役買っていた小野。第18週のメインキャラクターとして、香淑とは別の形で当時の日本と朝鮮の関係に翻弄される人物として、堺がどんな感情を表現するのか期待したい。 https://twitter.com/koharu___sakai/status/1816326291500814499
古澤椋子