K2 Pictures 紀伊宗之プロデューサー 「映画は儲からない」と言うのは日本人だけ【CINEMORE ACADEMY Vol.32】
「映画は儲からない」と言うのは日本人だけ
Q:ファンドでは投資を広く募っているのでしょうか。個人でも投資可能なのでしょうか。 紀伊:匿名組合で、私募債だから誰でもお金を出せます。実は日本の製作委員会システムって外国法人はあまり入れないんです。共同製作契約なので、4人いたら4人みんなでお金出し合って一つの映画を作るわけですが、例えば2,500万円ずつ出して1億の製作委員会をやる場合、消費税込で2,750万円払わないといけない。なぜなら、作ったものに消費税が掛かるから。外国法人にしてみたら、なんで消費税を払わなきゃいけないんだとなる。しかも最近はインボイス制度もある。結局、日本の製作委員会方式では外国法人は参加できなかった。でも投資となると消費税が掛からないんです。 製作委員会方式が悪いとは言わないし、国内向けに2億円規模で製作する映画だったら、今までの製作委員会方式で問題ない。でも、東映にいたときに最後の方で製作した『シン・仮面ライダー』や『リボルバー・リリー』(23)、先日発表した『十一人の賊軍』(24)などは、製作費が10億を超えています。そうすると今までの製作委員会方式では、お金が集まらないんです。だから企画を大きくして製作費も大きくするという方向に向かえない。 では、世界ではどうやって映画を作っているのか? 日本の映画人はほとんど知りません。だから世界の中で日本人だけが「映画なんて儲からへん」と言っているんです。カンヌ国際映画祭で世界の映画関係の会社と50件ほどミーティングをしましたが、「映画なんて儲かれへん」と言ってる人は一人もいませんでしたよ。 Q:最後の質問です。影響を受けた監督や好きな映画を教えてください。 紀伊:これはいつも言っていますが、『がんばっていきっましょい』(98)という映画がめっちゃ好きですね。最初に勤めた広島東映ではただの切符のもぎりでしたが、「なんて素敵な映画なんだ。この映画は絶対俺が当ててやる!」と思ったんです。広島でこれを当てることが出来たら、俺はこの業界でやっていけるかもしれないなと。それでめちゃくちゃ一生懸命プロモーションしました。 映画に出てきた「伊予東高校」は、広島の向かいの松山にある「松山東高校」がモデルでした。夏目漱石が先生として教えていたこともある公立の進学校です。広島にも松山東高校出身の人たちがたくさんいて、そういう人たちに聞くと、タイトルにもなっている映画のセリフ「がんばっていきまっしょい!」って本当に言うらしいんです。そんなOBたちに「この映画を当てたいから、いろんな人に紹介して!」と言ってまわり、地回りみたいなこともやりました。そうやって色んな人に会いに行って「この映画を観てくれ!」とやり続けた結果、この映画は広島が日本で2位の興行成績を収めました。そこで初めて、「俺やっていけるかも」と思ったんです。僕にとっては一番記憶に残っている、かけがえのない映画です。 広島みたいな100万人くらいの町で声を届けることが出来なかったら、俺の未来なんて無いよなと思っていました。たかだか100万ですよ。友達の友達の友達ぐらいで全員と繋がれるような世界で、自分が何者なのかということが伝わらないようじゃ、この商売やめた方がええんちゃう?と。それが東京だと1,000万人、関東だと4,500万人になってるだけの話なんです。そこにどうアプローチしていくのか。どう声を届かせるのか。そのために物を考えないとダメですよね。 K2 Pictures Inc. 代表取締役CEO 紀伊宗之 東映映画興行入社後、広島、大阪での劇場勤務を経て、会社設立直後の株式会社ティ・ジョイへ出向し、シネコンチェーンの立ち上げに従事。T・ジョイ大泉(現:T・ジョイSEIBU大泉)や広島バルト11等の劇場支配人を務めた後、新宿バルト9の開業に携わり、同社エンタテイメント事業部へ異動。映画興行、映画配給、企画、製作として『春との旅』(10)、『放課後ミッドナイターズ』(12)、『佐賀のがばいばあちゃん』(06)、『009 RE:CYBORG』(12)、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(12)を担当。新宿バルト9におけるアニメーション作品の編成・ラインナップを積極的に行うとともに、国内初のライブビューイングビジネスを立ち上げ、「劇団☆新感線」などの「ゲキシネ」の事業化にかかわる。その中で、アジアへの直接配給など海外展開も積極的に推進。2014年東映株式会社映画企画部へ異動。ホラー映画『犬鳴村』シリーズ(19~、清水崇監督)、任侠映画『孤狼の血』シリーズ(18・21、白石和彌監督)、『初恋』(20、三池 崇史監督、カンヌ映画祭「ある視点部門」ノミネート)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』『キリエのうた』(16・23、岩井俊二監督)、『リボルバー・リリー』(23、行定勲監督)といった実写作品の企画・プロデュースとともに、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(21、庵野秀明監督)の配給担当として同作の興行収入100億円突破に貢献するほか、『シン・仮面ライダー』(23、庵野秀明監督)を企画・プロデュースした。2023年4月東映株式会社映画企画部ヘッドプロデューサーとして退職。同年、新たな形の映画製作を目指して、K2Picturesを創業。 取材・文: 香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 撮影:青木一成
香田史生
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