アニメ映画版「ルックバック」レビュー 「創作」の意義を見つめた、ひとつの到達点
限りなく「1人で作った」アニメ表現の凄まじさ
押山監督は、本作で「脚本・絵コンテ・キャラクターデザイン・作画監督」でクレジットされている。絵コンテを1人で描き、自分で仮のアフレコと音楽をつけてビデオコンテを作成し、原画も半分ほど担当。作画監督としてのクレジット通り、他のアニメーターから上がってきた原画のほとんどに手を入れていたという。 もちろん、本作には「原動画」でクレジットされている井上俊之を筆頭に、現代を代表する有数のアニメーターが少数精鋭で参加しており、この特殊な制作体制を支えている。その力なくしては完成しなかったと押山監督も語っており、それによって「限りなく個人制作に近い感覚で作業できた」とも振り返っているのだ。 X(旧Twitter)で76万人超のフォロワーを誇る「小学3年生のながやまこはる(実際に運営しているのは原作者の藤本タツキ)」のアカウントにて、「絵の凄く上手い監督がほぼ一人で全部描いているらしい」と投稿されていたが、本当に「限りなく押山監督成分の濃い」作品なのだ。 その事実も凄まじいが、原作の荒いようで繊細な、密度のあるリアル寄りの絵を、崩れないようにアニメに落とし込むことが、どれほど難しいことかは、想像を絶するものがある。その上で、実際に出来上がった本編での、ダイナミックな表現の数々に圧倒された。 特に「京本が部屋から廊下へ飛び出して藤本を追いかける」「藤本が雨の中でスキップする」様は、「原作では数コマの、それはそれで完成された絵で描かれたことを、アニメで全力で表現するとこうなるのか」という感動があった。 原作者の藤本は今回の劇場アニメ化にあたり、「押山監督はアニメオタクなら知らない人がいないバケモノアニメーターなので、一人のオタクとしてこの作品を映像で見るのが楽しみ」などとコメントを寄せていたが、実際に出来上がった本編は、その期待値をも軽く超えていたのではないだろうか。藤本は鑑賞後に、「製作に関わってくださった方々の才能と熱量が伝わってくる」「自分では拾えなかった部分も丁寧に汲み取ってくれた」との投稿をしている。 余談だが、押山監督がテレビシリーズ初監督を務めたアニメ「フリップフラッパーズ」も女の子2人の関係性を尊く描く、また躍動感のある表現が満載の作品で、なるほど「ルックバック」との相性が抜群の作家だと思い知らされる。他にも共通項が多くあるので、併せて見てみるのもいいだろう。