『極悪女王』ダンプ松本とクラッシュ・ギャルズはどんなレスラーだったのか。伝説の目撃者が綴る
俳優全員が身を削り、命をすり減らしながら、女子プロレスラーになった
さて、本稿も終盤に差しかかったタイミングで、僭越ながら自己紹介をさせていただく。 齢50を過ぎている私は、高校生から大学生にかけてクラッシュ・ギャルズ公認親衛隊員、ライオネス飛鳥公認親衛隊長、飛鳥の公認ファンクラブ会長として、青春のすべてを女子プロに注いだ。20代から30代後半にかけては、プロレス月刊誌やプロレス週刊誌の女子プロ担当記者として、あまたの取材現場に足を運んだ。そんな数奇な人生で、柳澤健著の『1985年のクラッシュ・ギャルズ』(文藝春秋、光文社)に「3人目のクラッシュ」として登場した。 そんな私が『極悪女王』を称賛すると、贔屓目と思われかねないが、それを承知で私的感情を吐露しよう。主役のダンプを演じたゆりやんレトリィバァ、長与を演じた唐田えりか、飛鳥を演じたる剛力彩芽を含む全12人の女子プロレスラー役を演じた俳優たちは、立派な女子プロレラーだった。 オーディション合格からクランクアップまでのおよそ2年間(ゆりやんは3年間)、プロレススーパーバイザーの長与と女子プロ団体「マーベラス」、管理栄養士、トレーナーなどの監修・指導のもと、苦しすぎる増量、プロレスの基礎、トレーニング、受け身の練習、技の習得、自主練習ほか、見えないところで鍛錬を積んだ。何度も悔し涙を流しただろう。技ができると、喜びを分かち合っただろう。日増しに強靭な肉体を手に入れ、俳優は「選手」に、撮影は「試合」に昇華した。 プロレスのシーンに代役は立てず、俳優たちで演じきった。ほぼ順撮り(冒頭からほぼ順番通りに撮影する方法)のため、話数が進むにつれて筋肉は隆起している。背中や上腕、太ももには無数のアザができている。流した汗と涙は、ガチだった。だから、私はすべての感情を奪われた。泣いた。彼女たちのおぞましいガチに、泣かされた。 正直。ダンプなんて、太れば誰でも演じられると思っていた。完全無欠のトップアスリートである飛鳥を、細い剛力が演じられるわけがないと思っていた。偉才の長与を演じられる俳優なんて、この世に存在しないと思っていた。私は、アホだった。殴ってやりたいほど、アホすぎた。彼女たちは、「演じた」のではない。「なってしまった」のだ。 ゆりやんも唐田も剛力も、12人の俳優全員が身を削り、命をすり減らしながら、女子プロレスラーになった。撮影を終えてすでに1年以上がたっているため、俳優たちは体重を落とし、その後の人生を歩んでいるだろう。実在する女子プロ団体や選手も、それぞれのスピードで前に進んでいる。 『極悪女王』は、育ってきた環境や実情は違えど、愚直なまでに強くなることを求めた女性たちの物語だ。俳優も女子プロレスラーも、昭和も令和も関係ない。具象化できない生命力が濃縮されている。
テキスト by 伊藤雅奈子 / 編集 by 廣田一馬