木星の「大赤斑」は1665年に発見された「永久斑」とは異なる可能性が高いと判明
■大赤斑はカッシーニの永久斑とは別物の可能性が高い
Sánchez-Lavega氏らの研究チームは、木星の大赤斑の寿命に関する謎を解明する研究を行いました。まず、1665年のスケッチから2023年のデジタル画像に至るまで、様々な時代の永久斑や大赤斑の観測記録を調べました。次に、NASA(アメリカ航空宇宙局)の木星探査機「ジュノー(Juno)」による観測結果を元に、バルセロナ・スーパーコンピューティング・センターのスーパーコンピューター「MareNostrum(マレノストルム)」を使用して、木星での嵐の発生をシミュレーションしました。 まず、シミュレーションによって巨大な嵐の生成メカニズムが見えてきました。木星の大気には特定の緯度を境にしてお互いに正反対な向きの大気の流れが幾つもあり、それらが衝突する現場では複数の小さな渦が生じたり、流れが不安定になったりしている場所があります。そのような場所で周囲よりも高速な大気の流れが生じた場合、 “原始大赤斑” とでも呼ぶべき非常に巨大な渦が発生し、短期間で消滅せずに安定化します。原始大赤斑は時間経過とともに小さくなる一方で、風速が上昇します。この進化は、大赤斑が時間の経過とともに小さくなることを示唆しています。 木星の観測記録を調べると、1831年から継続して観測されている大赤斑は、時代と共に縮小しているようです。例えば1879年に写真として初めて撮影された大赤斑は非常に細長い楕円形であり、最も長い部分で約3万9000kmものサイズとなっています。 現在の大赤斑は1879年のものと比べれば真円に近い楕円形で、直径も約1万4000kmとかなり小さくなっています。これらのことから、1831年に観測された大赤斑は誕生直後のものを観測しており、1665年から存在した永久斑とは別物であるという可能性が高いことになります。
■大赤斑の運命が次の研究課題
今回の研究では、大赤斑は1665年から継続して存在していたのではなく、1831年ごろに誕生した可能性が高いことを示しています。この場合、大赤斑の年齢は少なくとも193歳と言うことになります。 木星の嵐は地球のものとは比較にならないほど大規模であり、そのメカニズムの全容はまだまだ判明していません。Sánchez-Lavega氏らは、大赤斑のような嵐がどのくらいまで小さくなると消滅するのか、あるいは安定して存在し続けるのかを次の研究目的としています。これが分かれば、木星の大赤斑の運命だけでなく、土星のような他の惑星、あるいは太陽系外惑星や褐色矮星で見つかっている嵐のメカニズムや運命も分かってくるでしょう。 Source Agustín Sánchez-Lavega, et al. “The Origin of Jupiter’s Great Red Spot”. (Geophysical Research Letters) “Jupiter’s great red spot is not the same one Cassini observed in 1600s”. (American Geophysical Union) “Jupiterren Orban Gorri Handiaren adina eta jatorria zehaztu dute”. (Universidad del País Vasco)
彩恵りり / sorae編集部