東京マラソンがいつもより熱いわけ~ライジングスター亡き後の高速争い
パリ五輪の男子マラソン代表選考争いがいよいよ大詰めに差し迫った。3月3日の東京マラソンがラストチャンスで、最後の1枠を競う。また、この大会は海外招待選手が例年豪華で、今年も前世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ(ケニア)を筆頭に強豪が目白押し。レースの格からして世界でも有数だが、今年は別の視点が加わる。現在の世界記録をマークした24歳のケルビン・キプタムさん(ケニア)が2月11日に交通事故で死去するというショッキングな出来事が起きたからだ。キプチョゲにとってはキプタムさんの死去後初となる42・195㌔のレース。ライジングスターのいなくなったマラソン界で再び、王者の名を欲しいままにできるのか。走りっぷりは日本のみならず海外からも大きな注目を集める。日本勢の五輪代表争いと絡み合い、例年以上のヒートアップした展開が予想される。
幻となった直接対決
日本時間2月12日朝、信じられないニュースが飛び込んできた。キプタムさん死去の速報を、地元ケニアの報道を引用して国際通信社が打電してきた。その後、程なくして世界陸連(WA)も死去をホームページで紹介するなど衝撃的な知らせが世界中を駆け巡った。 マラソンの申し子と言っていい。WAなどによると、キプタムさんはケニア西部の高地に位置し、長距離選手を多く輩出しているリフトバレー地域で生まれ育った。13歳で本格的に競技を始めると、マラソンデビュー戦となった2022年バレンシアでいきなり2時間1分53秒を記録し、初マラソン世界最高で制した。2023年4月のロンドンではさらにタイムを縮め、大会新となる2時間1分25秒をたたき出した。そして同年10月のシカゴで、人類史上初の2時間1分切りとなる2時間0分35秒で優勝。それまで頂点に君臨 していたキプチョゲの記録を34秒も更新した。 ケニアの地元当局によると、事故は現地2月11日の午後11時頃発生。キプタムさんが運転する車がコントロールを失って巨木に激突。キプタムさんと、同乗していたコーチは即死だったという。結局、マラソンの生涯成績は3戦全勝。次は4月のロッテルダムに出場予定で、史上初の2時間切りの希望も背負う全盛期だっただけに、驚天動地の悲報だった。 キプチョゲも同じくリフトバレー地域で育った。2022年9月のベルリンで2時間1分9秒の当時世界新をマークするなど無敵だった中、台頭してきたキプタムさんは母国の後輩。今夏のパリ五輪では〝夢の直接対決〟かと以前から興味を引いていただけに、キプチョゲの思いは複雑だろう。訃報に際し、自身のX(旧ツイッター)で「今後の人生全てで素晴らしい偉業を達成するはずだった選手。深い悲しみに包まれている」と哀悼の意を示した。 キプチョゲと日本のなじみは深い。2022年3月の東京マラソンで2時間2分40秒の大会新記録で優勝した。その約7カ月前の東京五輪では会場が変更された札幌で2位に1分20秒の大差をつけて快勝し、五輪2連覇を成し遂げた。今年の大会に向けては「いい練習に取り組めていて、今回のレースが、オリンピックでの3連覇達成に向けた、完璧な準備になると信じています」とコメント。39歳でも衰え知らずの自信を表した。