【40代・50代の「医療未来学」】未来は、更年期症状を医療でカバーできるの?
性教育のアップデートから考える
更年期について、知識の裾野がなかなか広がっていかない現状についてはどう思われているのだろうか? メディアの役割もあるが、教育の問題も大きいように思う。 「教育は、まさに大きな課題です。日本という国には、圧倒的に教育が足りていない。だって、ほとんどの人は脾臓(ひぞう)がどこにあるのか、自分の臓器にもかかわらず、その場所を知りませんよね? 例えばOurAge世代の読者の方は、『扁桃腺』という言葉はもうなくなって、今は『扁桃』と呼ばれていることはご存じですか? あれは『腺組織ではない』ということがわかったので名称が変わったのです。なので若い世代の人は、もう最初から『扁桃』と呼んでいます」 全く、知らなかった… 「だから医療のいろいろなことについても、教育のアップデートは相当期間、なされていないと言えるんですよね。今40代50代の人は、小中学校を卒業してから30年以上たっていますよね? でも教育がアップデートされていないから、新しい知識もなかなか広まらない。『新しいNISAの制度ができました!』ということと同じくらいは、数年に一度のタイミングで教育内容も見直してほしいと思うのですが」 全くだ。それこそ更年期については、例えば高校生になったら女子は学校の授業で教わるとかどうだろう。「女性の体はこんなふうに変わっていくことを覚えておきましょう」など、そういうふうに教われば、リテラシーもずいぶん変わっていくように思う。 「それでいうと、以前、小学校の指導要領を見て驚いたことがありました。妊娠の仕組みについて、着床から受精後のプロセスは教えてもいいけれど、その前、いわゆる男女がセックスをして妊娠が成立することについては教えない、というようなことになっていたんですよね。でもそこを教えずして、女性の体のこと、ましてや未来の更年期のことを、子どもが自分ごととして捉えられるのか、はなはだ疑問に感じました」 「いつの時代の話なの?」という感じだが。欧米や北欧の性教育はもっと成熟していると聞く。 「日本ではなかなか情報リテラシーが高まっていかないという背景には、時代の変化と教育とのズレが大きいことにも原因があると思っています。これも医療未来学の中では根深いテーマのひとつで、国も国民も、共通の問題意識を持つことが必要なんですよね」 更年期ひとつとっても、症状をラクにするために、広い視野で考えさせられることがまだまだたくさんあるようだ。 【教えてれたのは】 奥 真也さん 医師、医学博士。経営学修士(MBA)。 専門は、医療未来学、放射線医学、核医学、医療情報学。 東京大学医学部22 世紀医療センター准教授、会津大学教授を経てビジネスに転じ、製薬会社、医療機器メーカー、コンサルティング会社等を経験。創薬、医療機器、新規医療ビジネスに造詣が深い イラスト/内藤しなこ 取材・原文/井尾淳子