苦情対応歴30年のプロが語る「モンペ対応」のコツ トラブルが長引く原因は「教師や学校」にある
「社会における感覚のズレ」がモンペを増やしている
教員の働き方改革が進まない要因として、「モンスターペアレント対応」を挙げる学校は少なくない。そこで、元大手百貨店お客様相談室長で、現在は苦情・クレーム対応アドバイザーとしてさまざまな業界の苦情事案に助言をしている関根眞一氏に、学校が新年度を迎えるに当たって押さえておきたい保護者対応のポイントを教えてもらった。 【グラフ】公務員の感覚はずれている?アンケートの結果を見る モンスターペアレント(以降、モンペ)と呼ばれる、理不尽な要求をする保護者が急増したのは1995年頃。それから30年程が経つが、増減はあるものの、今もなくなることはない。根底に、学校や教師に対する「苦情」があるからだ。 保護者からの申し入れの多くは相談や提案だと思われるが、中にはイチャモンもあるだろう。しかし、申し入れの中身がどうであれ、対応に失敗すれば問題はこじれてしまう。多くの保護者問題を見聞きして、長引く例は決まって、逃げた教師と学校に原因がある。つまり、モンペは学校側の対応のミスによって生まれるものだと言える。 対応の失敗を最小限にするためには、まずはすべての申し入れを「苦情」として受け止めることが重要だ。この点について理解する学校関係者は以前よりも増えたが、まだまだ根本の理解が甘いために、多くの学校が長年モンペに苦しんでいるのではないだろうか。 理解の甘さは、社会における「公務員感覚のズレ」が関係しているように思う。 筆者が2009年と2019年に発刊した『日本苦情白書』(※)において、そのことが顕著に表れている。同白書は、8業種の苦情を分析したアンケート集であり、教育分野では、全国の教師3359名にご協力いただいた。 ※苦情講演の参加者を対象に、苦情に関するアンケートを行い、集計したもの。対象者の職種は、教育、歯科、病院、金融、企業、流通、行政、福祉から成る8業種。計1万7498名の回答(2009年版は2008年~2009年まで、2019年版は2008年~2017年までの回答)を分析 その中の「何が苦情の原因だと思いますか」という問いに対し、2009年版では「こちらの配慮不足」と回答した人の数が、8業種のうち「教育」が最下位だった。2019年版では、最下位は「行政」となったが、教育はそれに続き下から2番目。また、「いちゃもん」「クレーマー」を苦情の原因として回答した数も、行政が1番目、教育が2番目に多かった。つまり、ほかの業界に比べ、相手に非があると捉える傾向が高いのだ。 こうした公務員の苦情に対する感覚のズレ、いわばプライドの高さが、かつて「聖職者」として尊敬されていた教師の権威が失われてしまった状況とも重なり、モンペの増加を加速させてきたと筆者は考えている。 教師が尊敬されなくなった要因としては、保護者の高学歴化や教員の不祥事の増加が挙げられる。とくに不祥事で信頼が崩れたことは否めない。多くの先生方が日々現場で尽力されていることは存じており感謝もしているし、公務員の不祥事は報道で騒がれやすい面はあるが、児童・生徒への性暴力や体罰、最近では、名古屋市立小中学校の教員団体から教育委員会への上納金が発覚するなど、不祥事が絶えないのは事実だ。 学校側はこうした状況の変化を重く受け止めず、「児童生徒を預かっているのは学校なのだから、保護者が自分たちの考え方に同意するのは当然」だという態度を続けてしまい、保護者の不信感を募らせ、問題を大きくしてきたところがあると思う。