韓国で起きた妄想によるクーデター【コラム】
ユ・ガンムン|ハンギョレ統一文化財団常任理事・論説委員
「夜の間に戦車が都市を包囲し、軍が国会と放送局など重要施設を掌握した。軍は3週間後に行われる選挙で政権獲得が有力な政治家を逮捕した。その直後、危険人物の名簿を発表し、彼らを捕まえて隔離した。このすべてがわずか数時間で起きた」 英国の政治学者、デビッド・ランシマンが「民主主義の壊れ方」という文でクーデターを描写した部分だ。ランシマンは、クーデターがすでに世界で何度も起きており、人々はその時にどんな場面が繰り広げられるかをまるで(数学の)公式のように知っていると綴った。冒頭で引用した状況は、1967年4月21日夜、ギリシャで実際に起きた。 ランシマンは、現代民主主義国家でこのようなやり方のクーデターはもう力を発揮できなくなったと指摘した。たとえそのようなことが起きたとしても、滑稽に終わるだろうと嘲弄した。ランシマンはむしろ国家を武力で転覆させず、民主主義を破壊する新たな形のクーデターに注目した。政府の失敗、気候危機、パンデミック、情報の独占のような民主主義内部の隠れた危険に、より注目すべきだと警告した。 3日夜、韓国で非常戒厳を口実にしたクーデターが起きた。非常戒厳令が解除された後、続々と明らかになった情況からして、今回の事態は権力者が軍と警察を動員して国家を簒奪(さんだつ)しようとした典型的な親衛クーデターの様相を帯びている。過去の遺物だと思われていたクーデターが現実に蘇ったのだ。自由選挙と三権分立で構築した民主主義の砦がどれほど軟弱なのかを示したもので、さらに衝撃が大きかった。 米国の政治学者ナンシー・ベルメオは、武力による民主主義の破壊はクーデターの一類型に過ぎないと指摘した。そして、行政を掌握した人々が民主主義を猶予すること、特定の結果を作り出すために選挙過程を操作すること、選挙を通じて統治の正当性を確保した人たちが民主主義を損なうこと、権力を持った人たちが民主主義を少しずつ弱体化させることなども、クーデターの一種だとみなした。現代の民主主義国家で、クーデターは銃声を轟かせずとも起こり得る。 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は就任後、民主主義を猶予し、損ない、弱体化させた。今回のクーデターは、尹大統領が就任した日から始まったと言っても過言ではない。ついに12日の談話では極右ユーチューバーたちが主張する選挙不正疑惑を戒厳令発動の理由に挙げた。「妄想」という精神病理学的要素がこれまで隠してきたクーデターの武力を撃発したのだ。クーデターのカテゴリーに新たな類型を加えるべきかもしれない。 ユ・ガンムン|ハンギョレ統一文化財団常任理事・論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )