今や「走るホテル」状態? 推し活で夜行バス利用が増えているワケ
■ 都内のホテル代高騰も原因? 夜行バスでのライブ参戦増加 アーティスト、アイドル、俳優、スポーツ選手……今や日本は4人に1人がなんらかを「推し」ているとされ、特に10代~20代は32.7%が「推し活・ヲタ活」に励んでいるという(2024年・推し活総研「推し活に関する調査」)。 【画像】増収増益の要因を説明するWILLER EXPRESS株式会社 代表取締役社長 平山幸司氏 そして「推し活勢」は、ライブやイベントの開催とともに、各地から一斉に会場に移動・集結する。その移動に夜行バスがよく使われているという。 夜行バスを中心に全国200路線以上を展開するバス会社「WILLER EXPRESS」が2024年12月の戦略発表会で公表したところによると、2024年は前年に比べて乗車率・平均単価ともに大幅上昇。増収増益で着地する見込みであるようだ。 同時に、「WILLERの夜行バスは、社会人の推し活勢のライブ参戦によく利用されている」という事実が、平山幸司社長から明かされた。東京ドーム・京セラドーム大阪・バンテリンドームナゴヤなどで開催されるライブ・イベントがあると、遠距離から参戦する人々で、利用者の大きな山ができるそうだ。 本来であれば、ライブ前の遠距離移動は「前日に飛行機・新幹線入り、ホテル泊」で身体の負担はグッと楽になる。しかし外国人旅行者の急増などもあり、特に都内ホテルの平均客室単価は、2022年の「8701円」から2024年には「1万6556円」に倍増(東京ホテル会調べ)。もはや1泊の料金が東京~浜松間の新幹線・往復料金並みに高騰しており、推し活勢からすると、この規模の支出は極力抑えたいところだ。 WILLERで利用者にアンケートをとったところ、81%が「ここ1年で宿泊料金が高くなったと感じている」、62%が「宿泊料金が高額なため夜行バスを利用した」と回答している。外国人旅行者の急増によるホテル不足だけでなく、「ホテル代が高くなっている」からこそ、推し活勢は宿泊を回避して、夜行バスを選択しているのだ。 そして、推し活に高速バスが使われる理由は、コストの問題だけではない。「高速バス+ライブ参戦」は、推し活のなかでもかなり熱心な人々の行動様式に、とても合っているようだ。実際に、そういった人々に話を伺ってみた。 ■ 推し活勢、早朝到着の夜行バスを重宝するワケ「ライブ日は朝から忙しい!」 ライブに参加する推し活勢は、「グッズ販売の列に並ぶ」「ファン同士のコミュニティに参加」などの行動をセットに、1日中せわしなく行動する場合も多い。夜行バスで早めに到着すれば、朝早くから行動(ヲタ活)できるのだ。 東京ドームのライブを例にとってみよう。開演は18時でも、グッズ販売は10時から始まり、その前から「22番ゲート前(よくグッズショップが開設される場所)」には限定グッズ目当ての行列ができる。早く並ばないと、最悪の場合はドームから敷地出口、外堀通りや水道橋が見える場所まで伸びた行列に並ぶハメになる。 さらに、ファン同士のコミュニティで集まる場合(いわゆるオフ会)もあり、ファン同士で目当てのグッズやガチャを物々交換する会が、水道橋駅周辺のカフェの片隅でひっそりと行なわれる。ここでオフ会のネットワークを張っておけば、「人数限定のファンイベント」「急な撮影でのエキストラ募集」などの情報が飛んでくることもあり、「午後は人脈作り」という方もいるそうだ。 なお筆者の会社の同僚も、こういったやり取りがもとで「アイドル・真野恵里菜さんのハロプロ所属ラストシングルのPVで、踊ってくれるファンを100人単位で募集」という情報を得て、見事その役を射止めた。こういった横のつながりは、本当に軽視できないのだ。 こうして見ると、推しのライブに参加するまでの行動パターンはきわめて忙しく、朝から晩まで「これライブ中に寝ない? 大丈夫?」と言いたくなるほどだ。しかし、ホテル代が高騰しているうえに予約がとれない今、夜行バス利用なら朝からグッズ列に並べるうえに、なにより……ここで数千円が浮けば、グッズをもう1、2点買える。推し活勢の利用実態から考えると、確かに夜行バスの利用に向いていると言えるだろう。 ■ 夜行バスで重要な「待ち環境」「メイク落とし環境」 夜行バスを推し活に利用するうえで気になるのは「快適性」「待ち環境」だ。ライブ当日に時間を有効に活用できたとしても、女性なら前日の仕事終わりにメイクを落とし、休息するような場所も必要だ。 WILLERでは、この待ち環境改善のために、過去にはレンタルスペースの特別料金での貸し出しなどを実施してきた。そして今、「WILLERバスターミナル大阪梅田」などでは予約制のパウダールームを設置、カールアイロンやドライヤー、手鏡などの有料貸出などもあるという。 あとはメイク落としなども販売しているため、ほとんどオフモードでバスに乗車し、顔がすっぽりと隠れるカノピータイプの座席で熟睡。そしてライブ終了後は夜行バスに乗り、到着してからメイクを直して出勤!……といった行動をとれるのだ。 ジャンルを問わない推し活勢が増える一方で、首都圏を中心にホテルの予約も取りづらい状況も続く。こういった「推し活+夜行バス」勢は、これからも増えていくだろう。
トラベル Watch,宮武和多哉