〈パリ五輪、相次ぐ選手への誹謗中傷〉「批判」も心を傷つける、“軽い投稿”で高い代償リスクを忘れてはならない
プロ野球では法的措置も
国際オリンピック委員会(IOC)はこうした事態に対し、パリ五輪で初めて人工知能(AI)を活用した監視を進める。 IOCによれば、大会中のSNSへの投稿は5億件と予想。プライバシー侵害や人種差別、性的な偏見なども含む悪質な投稿で精神的に傷つける「サイバー虐待」からアスリートを守るためとし、35以上の言語に対応した広範な監視を行う。選手村内に心のケアのための拠点も、五輪で初めて開設した。 アスリートへの誹謗中傷は五輪だけに限らない。 日本プロ野球選手会は7月22日、SNS上で選手に対し、「到底許容されない内容の誹謗中傷、侮辱や脅迫等が行われたことを確認した」として裁判所に求めた複数のアカウントに対する発信者情報の開示が認められたと発表した。特定できた投稿者に対しては、「更に責任を追及すべく、手続きを進める」と断固とした姿勢で臨む。 誹謗中傷投稿の具体例として「消えろ」、「ゴミ」、「カス」などの表現を上げる一方、「これに限らない」とも指摘する。 SNSの発達によって、誰もが意見を発信できる時代になった。アスリートへの誹謗中傷は、いわば時代の弊害でもある。 誹謗中傷と批判は別という考えもあるかもしれないが、選手は重圧の中で戦い、結果を受け止めるという過酷な状況に置かれていることを忘れてはならない。SNSへの投稿は、会社の同僚や家族、仲間内での雑談とは一線を画し、そのメッセージは広く発信される。個人のSNSの投稿をメディアが都合よく引用する報道姿勢も疑問だ。 プロ野球選手会に限らず、スポーツ競技団体やプロスポーツ組織も断固たる処置を取ることを表明している。刑事告訴や民事訴訟による損害賠償請求など厳しい対応はさらに加速していくだろう。アスリートを傷つける行為は、自らも高い代償を払うことになることを忘れてはいけない。
田中充