巨大地震は一度で終わらないかもしれない…「南海トラフ巨大地震」の「激しすぎる揺れ」の想定
激しい揺れが長く続く南海トラフ巨大地震
地震の規模を示すマグニチュード(M)が1大きくなると、地震のエネルギーは約32倍になるといわれる。東日本大震災の地震規模はM9.0だったが、南海トラフ巨大地震の想定はM9.1で、東日本大震災の約1.4倍の地震エネルギーということになる。地震の本質は、地下で発生する急激な震源断層の破壊現象であり、地震の規模(M)は、震源断層の破壊面積に比例するといわれる。破壊始点などによって異なるが、一般的に震源断層の面積(長さ)が大きければ、破壊始めから破壊終りまでの時間が長くなり、破壊継続時間が長くなれば、強い揺れの継続時間も長くなるとされる。 巨大地震の場合、震源域面積が広く大きくなるので、地震の発生位置を点で表すことは適切ではないが、一般的に地震発生時の震源断層の破壊開始点を「震源」(震源が震源断層面全体の中央にあるとは限らない)、震源の真上の地表点を「震央」と呼び、破壊された領域全体を震源域という。 これまでの研究や知見で、断層破壊が破壊開始点(震源)から、断層域全体に伝播していく速度は秒速2.5~3キロメートル/秒といわれる。時速に換算すると約1万キロメートル/時の速度。つまり、地中を破壊が進む速さは、ジェット旅客機の速度(800~900km/h)よりもはるかに速く、ずれ動いていく伝播位置の移動とともに地震波を発出する位置も移動し、最後にずれる量がなくなったときに震源断層面の破壊拡大が終了し、破壊継続時間も終わる。 破壊継続時間とは、「有限な速度で伝搬する破壊が、震源域全体に拡がるのに要する有限の時間」とされている。破壊の伝搬は不規則・不均一なため、また、震源域からの距離などによっても異なるが、一般的に破壊継続時間と強い揺れの継続時間の傾向はほぼ比例するといわれる。日本付近で発生する地震による強い揺れが続く時間は、地震の規模(エネルギー・マグニチュードM)にほぼ比例し、M7級の地震で約10~15秒間、M8級地震であれば約1~1.5分間、M9級の地震で約2.5~3.5分間揺継続するといわれる。 例えば、阪神・淡路大震災はM7.3、震源断層長さは約40~50キロメートル。破壊継続時間(強い揺れ継続時間)は約15秒。わずか15秒の強い揺れで、死者・行方不明6,437名、重軽傷43,792名、全半壊建物24万9,180棟という甚大被害を出した。震源の浅い直下型地震(最大震度7)の揺れの凄まじさを思い知らされた。 東日本大震災はM9.0で破壊された断層は、長さ約450キロメートル、巾(はば)約200キロメートルといわれる。破壊継続時間は170秒(約3分)と発表されている。約3分でも、「強い揺れが永遠に続くような気がして、早く終わってくれと、そればかり祈っていた」などの証言があるように、激しい揺れの3分間は、とてつもなく長く感じる恐怖の時間となる。 南海トラフ巨大地震の想定規模はM9.1、想定震源域の長さは、静岡県駿河湾~宮崎日向灘沖まで東西約700kmといわれる。震源断層面の傾斜角度、すべり量、震源の深さ、破壊始点などの破壊・伝播条件によって異なるが、仮に700キロメートルの震源断層が時速1万キロメートル/時の速度で同時に動いたと仮定した場合、単純計算で破壊継続時間は約4分12秒程度。また、全体の半分が動く半割れ(仮に半分の約350kmとした場合)であれば、破壊継続時間は約2分06秒という計算になるといわれる。これはあくまで目安であって、条件によっては破壊継続時間や強い揺れ継続時間も変わる可能性がある。 南海トラフ巨大地震の想定の多くの場合では、陸域の真下が震源域となっている。震源に近い地域では、阪神・淡路大震災(直下地震)の時のような激しい揺れが長く続く可能性がある。激しい揺れが長く続けば、多数の建物や設備などが倒壊・損壊する率が増し、人的被害が一段と増えることが懸念される。 災害はどれも同じではない。次の南海トラフ巨大地震がどんな地震になるかは起きてみないと分からない部分も多い。そこで対策を進める場合、過去繰り返されてきた南海トラフ巨大地震の傾向を学ぶことは極めて重要である。そこから対策すべき結果事象を精査し、個人、地域、組織がどう備えるかを考え、実行するヒントにすべきである。前述した白鳳地震を除き、過去に発生した南海トラフ巨大地震の主な被害や災害の傾向を紹介する。 さらに関連記事<「南海トラフ巨大地震」は必ず起きる…そのとき「日本中」を襲う「衝撃的な事態」>では、内閣府が出している情報をもとに、広範に及ぶ地震の影響を解説する。
山村 武彦(防災システム研究所 所長・防災・危機管理アドバイザー)