睡眠は「脳の誕生」以前から存在していた…なぜ生物は眠るのか「その知られざる理由」
私たちはなぜ眠り、起きるのか? 長い間、生物は「脳を休めるために眠る」と考えられてきたが、本当なのだろうか。 【写真】「脳がなくても眠る」って一体どういうこと!? 「脳をもたない生物ヒドラも眠る」という新発見で世界を驚かせた気鋭の研究者がはなつ極上のサイエンスミステリー『睡眠の起源』では、自身の経験と睡眠の生物学史を交えながら「睡眠と意識の謎」に迫っている。
私たちはなぜ眠るのか?
眠りとは何だろうか。夜が更けると眠くなり、毎晩寝床に就く。眠っている間には、夢を見ることもある。人間の三大欲求に食欲、性欲、そして睡眠欲がある。食欲は体の維持に必要なエネルギーを得るため、性欲は子孫を残すため、では睡眠欲は何のためだろうか。人間は二晩以上眠らないと精神に異常をきたすようになり、ネズミを2週間にわたって起こし続けると死んでしまう。睡眠には、何か重要な役割があるに違いない。 私たちは、眠りをどう認知し解釈してきたのだろう。 古代ヨーロッパにおいて、眠りは死に近いものとされた。眠っている間、魂は肉体を離れて浮遊し、夢をもたらす。夜が明けても魂が戻らないときには、死が訪れるのではないかとして恐れられた。18世紀になると、睡眠を宗教的な解釈から切り離し、科学的に捉え直そうと試みられたが、せいぜい「睡眠は動物が意識を失う状態である」と定義するにとどまった。20世紀になり睡眠の科学的理解が大きく進んだ。脳波の計測技術が開発され、眠っているときと起きているときで脳波の性質が異なることが分かったのである。睡眠が、脳の電気活動によって定義されるようになった。 しかしながら、眠りの意義や役割、そのメカニズムについては、まだまだ謎が多い。睡眠薬なるものが開発されているが、それはあくまでも今わかっているメカニズムに基づいて創られている。現在、世界中で多くの研究者が睡眠のメカニズムを解明しようと研究しているが、これがなかなかの難題だ。 睡眠は、脳波によって定義されることからも分かるように、脳で起きる現象である。しかし、ヒトの脳は約1000億個の神経細胞が入り組んだ極めて複雑なシステムだ。研究でよく用いられるネズミの脳でさえ、約1億個の神経細胞からなるというから、そこで起きている現象を解析するのは難しい。睡眠の研究に何か革新を起こそうとすれば、それはもっと単純な神経系を持つ生物を研究することである。