嘘をつくぐらいだったら「嫌われてもいい」 漫画編集者・林士平がポッドキャスト番組でこぼす本音とヒット作の舞台裏
漫画における表現
――ポッドキャストで、「昔は若い時はよく怒っていた」と話されていて驚きました。林さんは順風満帆に見えるので。
林:あはは。怒りの感情は決して悪いものだけではないですからね。良い仕事を生み出すエネルギーに転換できるか、が大事だと、個人的には捉えております。
――先ほどの「アップル」の話に通じますが、表現を妥協すると物語の強度が落ちますね。表現のNGラインは曖昧な部分も多そうです。
林:そうですね。90年代によく見られた表現とか一部のギャグは、もう描けなくなってきていますよね。「今は大丈夫」でも未来はどうなるのか分からない。だからこそ「今の感性」で作ろうと思ってます。
誰も傷つかない表現は……多分、無理なんじゃないでしょうか。いたずらに誰かを傷つけるつもりはなくても、絵とストーリーがある時点で、どうしたって誰かを傷つけてしまう可能性がある。でも、傷つく範囲はどれくらいで、どういう傷なのかを自覚すること、そこの折り合いを探すのも編集者の仕事なのかなと思っています。自分ができることは「気をつけ続ける努力」しかないと思っています。
逆に「今までの普通」で傷ついてきた側の物語が出やすいのが漫画でもあるような気もしています。恋愛感情を抱かないセクシュアリティの「アロマンティック」を題材にした作品を担当させてもらったこともありますが、名前がついているだけで解決していない問題はたくさんある。こういう作品も世に出していきたいとも思っています。
――今後やりたいことは?
林:目先の話だと、あまたあるポッドキャスト番組の中で「イナズマフラッシュ」の存在感をしっかり出して、リスナーに届く番組にしていきたいです。また、ゲストの皆さまと、この場だけでなく、番組から生まれる何か、をお届けしていけたらうれしいなと願っています。
編集者としては、あと5年……10年は走り続けたいですね。あとは「イナズマフラッシュ」もそうですが、いろんな仕事ができるようになったので、毎日刺激で溢れてます。全部、漫画に生かせていければと思います。