嘘をつくぐらいだったら「嫌われてもいい」 漫画編集者・林士平がポッドキャスト番組でこぼす本音とヒット作の舞台裏
逆に「面白い」と思っていないのに、お世辞を言う方がひどい気がします。お世辞は自分が作家さんに嫌われないためにつく嘘とも言えるじゃないですか。1回嘘をついたら永遠に続けないといけないのでコミュニケーションのカロリーも高い。僕は作品を良くするのが仕事なので、最悪……真摯に向き合った結果なのであれば、作家さんから嫌われてもいいんです。
あ、でも締め切りの嘘はあります(笑)。新年会などで先生たちが集合する時はヒヤヒヤしています。「ジャンプ+」では毎月5000ページを刷ってるので、入稿校了をズラさないと運営が厳しい事情もあるのですが。
――健康面やメンタル面はどうやってサポートされてますか?
林:「食べてます? 寝てます?」は打ち合わせでよく聞きます。漫画稼業は、スポーツ選手と似ているので身体のメンテナンスは大事。不健康だとメンタルにも支障が出てしまいます。
作家さんたちのスケジュールを見て、整体や鍼の予約案内をすることもありますし、この前は連載作家さんと2人でピラティスに行きました。プロだからこそ身体のケアも大事な仕事だと思ってます。
――編集者の仕事として、アニメ、舞台、映画などの監修もカロリーが高くなっていると伺いました。
林:作家さんによって関わり方はそれぞれです。「SPY×FAMILY」の遠藤先生は、隔週連載しながらアニメの脚本・美術設定・絵コンテなどを全部確認していましたし、全面的に託してくださる方もいます。
メディア展開する際は、原作の中で守らなくてはいけないことと、各メディアの約束事の落とし所をいつも探してます。昔からアフレコの現場には全話行ってましたし、最近はミュージカル脚本の調整もやりました。
――「SPY×FAMILY」ですね。
林:はい。スケジュール的に遠藤先生の監修が厳しかったこともあり、企画書を見せた上でオーディションなどは見ていただきましたが、「ここからの監修はお預けします」となりました。僕らもミュージカルの監修は初めてだったので、正直言ってかなり不安でした。ミュージカルは歌が多いし、短い時間の中で物語全てを追うのも難しい。歌が随所にあるので、自然な盛り上がりも必要です。とはいえ、物語の核となる部分が伝わらないのであれば「SPY×FAMILY」でやる意味がないし、登場人物が絶対しない言動があると、そのキャラクターが死んでしまう。脚本家や演出家の方々とは丁寧に議論を重ねました。遠藤先生には初日公演に来ていただいたのですが、緊張しながら観た記憶があります。結果的に皆さんにご満足いただけたので安心しました。