フランス国民議会選挙・第1回投票でマクロン与党が大敗、「極右」政党が最大勢力に躍り出たのは一体なぜか?
コアビタシオンとなるか
RNが国民議会で過半数の議席を獲得すれば、バルデラが首相になる。大統領は国民から直接選挙で選ばれるが、首相は大統領が任命することになっているが、そのポストの決定権は、日本やイギリスのように、議会の多数派が握る。 これまでも、1986年3月~1988年5月のミッテラン大統領(社会党)・シラク首相(保守の共和国連合)、1993年3月~1997年6月のミッテラン大統領・バラデュール首相(共和国連合)・ジュペ首相(共和国連合)、1997年6月~2002年5月のシラク大統領・ジョスパン首相(社会党)といった保革共存(コアビタシオン)があった。 7月7日の決選投票でRNが過半数の議席を獲得すれば、バルデラが首相となる。これまでの右派・左派のコアビタシオンではなく、中道・極右のコアビタシオンとなる。 今のところ、RNは第1党になっても、過半数には届かないだろうとみられている。そうなった場合、どの勢力も過半数に達しない「宙づり国会」となる可能性がある。誰が首相になるのかを含め、全ては決選投票の結果にかかっている。 それだけに、決選投票までの各派による合従連衡がどのようになるか、これから1週間の動きに注目したい。 マクロンは、左翼連合との共闘には消極的である。
「国民連合」躍進の理由
国民連合は、移民によって治安が悪化し、フランス文明が破壊されると危惧したジャン=マリー・ルペンが、フランス第一主義を掲げて、1972年に国民戦線(FN)という名で創立した政党である。移民排斥という極右路線は、先述したようにフランス国民からは忌避された。 2011年1月には、三女のマリーヌ・ルペンが第2代党首に就任し、党勢を拡大し、2017年5月の大統領選挙では、第一回投票で、マリーヌ・ルペンがトップに躍り出たが、決選投票でマクロンに敗れた。2022年5月の大統領選挙でも、決選投票で負けたが、41.5%の票を獲得している。 2022年11月には、イタリア移民の子であり、28歳の若いジョルダン・バルデラが第三代党首に選出された。そのことは、党のイメージチェンジに大きく貢献した。 また、政策的にも、過激な排外主義的主張を引っ込めて、ウクライナ支援への消極姿勢も棚上げし、EUとも融和的な方向に切り替えた。それらが功を奏して、多くの若者を引きつけたのである。 「悪魔」と呼ばれていたRNが、「脱悪魔化」に成功し、共和国の理念と矛盾しないと見なされるようになった。 マクロンは、労働者の解雇を容易にしたり、年金支給開始年齢を62歳から64歳に引き上げたりして、国民に不評な改革を独断専行で行ってきた。格差の拡大に反発した市民が「黄色いベスト」を展開したことは記憶に新しい。 そのマクロン政権への反発が、RNへの投票となったことは否めない。RNは年金改革を撤回すると主張している。また、ウクライナ戦争による物価高騰など、国民の不満は高まっている。マクロンの不人気こそが、RN躍進の背景にある。 フランスの政治が混乱すれば、それは、EU、ヨーロッパ、世界にも大きな影響を与える。フランス国民の良識に期待したい。
舛添 要一(国際政治学者)