【マイルCS】ソウルラッシュ 堅実な走りで遅咲きの優等生が王座に輝く 池江泰寿調教師「オルフェーヴルのようにヤンチャだったら、GIを2、3勝している」
第41回マイルCS回顧
「優等生」という言葉は、勝負の世界においては褒め言葉にならないこともしばしばある。ソウルラッシュを見ていると、そんなことを思ってしまった。 【レース映像】京都11R マイルチャンピオンシップ(GI)|ソウルラッシュ(牡6・団野大成) 2歳暮れのデビュー戦を勝利した後、しばらく勝ち星から遠ざかってはいたが3歳暮れから末脚が安定してくるとそこから破竹の4連勝でマイラーズCを制覇。初のGⅠ挑戦となった安田記念は直線で不利に見舞われたことで13着。 大敗したとはいえ、大きな不利があってのものだけに巻き返す余地はいくらでもあるはず。 上り調子の4歳馬で安定して切れる末脚を出せる馬だから近いうちにGⅠ馬になるだろう――この当時のソウルラッシュはそう思われていた。 レース前からイレ込むことはなく、騎手の指示に従ってしっかりと走れる優等生キャラ。それだけにいつかはビッグタイトルを掴むだろうと。 だが、ソウルラッシュに待っていたのは厳しすぎるGIへの壁だった。 いつもなら切れるはずの末脚が、GⅠの舞台になると切れ味が鈍ってしまうのか、4歳時の安田記念以降、GⅡまでのレースなら[2・2・1・0]と無類の安定感を誇っていたのに、GⅠでは[0・1・1・3]。 3度目の挑戦となった6歳時の安田記念まで上がり3ハロンの時計は出走メンバーの上位3位にすら入らず。持ち味を生かしきれないまま、ソウルラッシュは6歳の秋を迎えた。 「気性がオルフェーヴルのようにヤンチャだったら、GⅠを2~3勝しているはず」と、管理調教師の池江泰寿からこう評されるほど、優等生なままのソウルラッシュ。 真面目に勤勉でいることはとても大切なことだが、極限の勝負となるGⅠの舞台では狂気みたいなものが必要だということだったが……7度目のGⅠ挑戦となったマイルCSでソウルラッシュはついに輝きを放った。 イギリスから欧州最強マイラーの呼び声高いチャリンを迎えた今年のマイルCSは、そのチャリンと日本勢4頭の5頭の争いという下馬評。 昨年のこのレースの勝ち馬ナミュールに、昨年のエリザベス女王杯を制したブレイディヴェーグという強い牝馬2頭に富士Sを制したジュンブロッサム、そしてこのソウルラッシュの5頭が人気の中心となり、単勝オッズ10倍を切る形となっていた。 どの馬も強いのは間違いないが、どれも一長一短というメンバー構成で、どの馬が勝ってもおかしくないという混戦模様を象徴するかのように京都の空は曇ったままだった。 そんな中を闊歩するソウルラッシュは普段通りそのもの。前走より2キロ増えた馬体は514キロと堂々たる体躯を誇り、いつものように悠然と周回。 変に気負い過ぎることもなく、かといって大人しすぎない。いつものような周回を見せていた。 そうした優等生ならではの落ち着きが、レースでプラスに働いた。 ジュンブロッサム、チャリンがあまりいいスタートを切れない中、ソウルラッシュもゲートの出は今ひとつ。伏兵のバルサムノートがハナを切り、レイベリングとニホンピロキーフらが先団を形成するという形になった馬群は前半の800mを45秒7という平均ペースで通過。 そうした先行馬たちを見ながらナミュール、ブレイディヴェーグという2頭の牝馬が脚を溜め、その後ろにソウルラッシュ。さらに後ろにチャリンという形で3コーナーへと入っていった。 先行する3頭の序列は変わらず、ナミュールが少し仕掛けたくらいでブレイディヴェーグもチャリンもまだ動かない。 そうした流れの中でソウルラッシュはと言うとブレイディヴェーグのすぐ後ろ。中団に付けたまま最後の直線へと入っていった。 各馬横並びで最後の直線へと入っていくと、逃げ粘るバルサムノートを一足先に捕らえに行ったのはなんと10番人気のウインマーベル。 内の荒れ馬場ではなく、末脚を伸ばしやすい外へと進路を取り、一歩、また一歩と前を追いかけ始める。 ブレイディヴェーグもナミュールも馬群の真ん中にいて動けず、欧州最強マイラー・チャリンはまだ後方のまま。伏兵の激走で波乱のマイル王者が生まれるかと思われたが、ウインマーベルの外から飛んできた馬がいた。 それがソウルラッシュと団野大成だった。 残り200m過ぎ。団野渾身の鞭に応えるようにグングンと伸びていったソウルラッシュは先に動いていたウインマーベルを捕らえて先頭に立つと、そこから後続を離すようにストライドを広げていく。 その伸び脚はまさに堅実そのもの。 道中掛かることなく脚を溜め、騎手の指示通りに走り、そしてゴーサインが出れば抜群の切れ味を発揮する――まさに優等生と称されるにふさわしい堂々たるレース振りでソウルラッシュは差を広げていた。 残り100m。ソウルラッシュと後続との差は3馬身近く離れていて、団野に届くものはもういない。 そう感じたからか、鞍上の団野も残り100mを切ったばかりのところで左腕を突き上げるガッツポーズを見せるという派手なパフォーマンスを見せてそのままゴール。 ソウルラッシュに次ぐ2着に入ったエルトンバローズに2馬身半もの差を付けるという完勝振りで、あと一歩突き抜けられなかった優等生は7度目の挑戦にしてついにGⅠタイトルをつかみ取ってみせた。 「馬のリズムでしっかり運べたし、それが最後の伸びにつながったと思う。そして抜け出してからも強い足取りだった」 レース後、ソウルラッシュをGⅠホースへと導いた団野は思いのほか淡々とインタビューに答えていた。 あの派手なガッツポーズを見た後だっただけにもっと興奮気味なコメントが出てくるかと思っていたが、まるで別人のようにインタビューではソウルラッシュの強さをただただ語るに終始した。 もしかしたら、団野は「ソウルラッシュが勝つのは当然のこと」と思っていたのかもしれない。誰よりも彼を信頼していたからこそ、この馬の強さを淡々と語ってくれたのだろう。 7度目の挑戦で遂にGⅠタイトルを得た優等生・ソウルラッシュ。遅咲きのチャンピオンマイラーはその堅実な走りで今後もマイル戦線を制圧していくことだろう。 ■文/福嶌弘