「戦後日本」は、じつはアメリカの軍部によって「植民地支配」されているという「異常すぎる現実」
世界史的なスケールを持った対立
マッカーサーがどれほど自覚していたかはわかりませんが、日本の独立モデルをめぐるマッカーサーと軍部の対立は、 「新しい時代の集団安全保障構想(国連軍+憲法9条)」と、 「従来型の軍事同盟(東西冷戦構造)」 の対立という、世界史的なスケールをもった対立でもありました。 しかし朝鮮戦争の突然の開戦によって、マッカーサー・モデルはその砲煙のなかに消えさり、ダレスの考案した「疑似国連軍」としての米軍が、世界中に軍事同盟の網の目を張りめぐらしていくことになりました。 なかでも日本は、国連憲章の暫定条項(例外条項)を駆使したダレスのさまざまな法的トリックに完敗し、国連の名のもとに米軍に無制限の自由を与える、徹底した軍事的従属関係を認めることになってしまったのです。 それがサンフランシスコ・システムです。 そのあまりに歪んだ二国間関係が、冷戦の終結後、アメリカの軍部に「世界の単独支配」という「狂人の夢」を見させ、アメリカ自身を、みずからがつくった国連憲章の最大の破壊者へと変貌させてしまった。
日本と世界のためにできること
私もこれを知ったときは驚いたのですが、じつはあのブッシュ政権の国務長官だったコンドリーザ・ライスでさえ、日本と韓国に軍をおくアメリカ太平洋軍について、次のように述べているのです。 「太平洋軍司令官は昔から植民地総督のような存在で(略)最もましなときでも外交政策と軍事政策の境界線を曖昧にしてしまい、最悪の場合は両方の政策をぶち壊しにしてしまう傾向があった。誰が軍司令官になろうが、それは変わらなかった。これは太平洋軍司令官という役職にずっとつきまとっている問題だろう」(『ライス回顧録』集英社) つまり「戦後日本」という国は、じつはアメリカ政府ではなく、アメリカの軍部(とくにかつて日本を占領した米極東軍を編入した米太平洋軍)によって植民地支配されている。 そしてアメリカ外交のトップである国務長官でさえ、日本がなぜそんな状態になっているのか、その歴史的経緯や法的構造が、さっぱりわかっていないということです。 けれどもこの本をお読みになってわかるとおり、謎はすべて解けました。 あとは、いつになるかわかりませんが、きちんとした政権をつくって日本国内の既得権益層(いわゆる「安保村」の面々)を退場させ、アメリカの大統領や国務長官に対して、 「現在の日米関係は、朝鮮戦争の混乱のなかでできた、あきらかに違法な条約や協定にもとづくものです。こうした極端な不平等条約だけは、さすがに改正させてほしい」 といって交渉すればいいだけです。 なにしろ日本人の人権は、アメリカのコウモリや遺跡よりも、米軍から圧倒的に低く扱われているのです(第6章)。真正面からその事実を示して堂々と交渉すれば、 「いや、それは今後も続ける」 といえる大統領も国務長官も、さすがにいないでしょう。 日本人が、この歪んだ従属関係であるサンフランシスコ・システムから脱却することは、日本はもちろん世界の歴史にとっても、非常に大きなプラスをもたらすことになるのです。 さらに連載記事<なぜアメリカ軍は「日本人」だけ軽視するのか…その「衝撃的な理由」>では、コウモリや遺跡よりも日本人を軽視する在日米軍の実態について、詳しく解説します。
矢部 宏治