「望まない妊娠」はなぜ起こる? 男性の「射精責任」を問い全米を騒然とさせた一冊(レビュー)
いまも絶えない嬰児の「産み落とし」事件。ニュース内で報じられるのは女性の名前ばかりだが、そもそも精子がなければ赤ん坊は生まれない。はて、その製造元はどこにいる? ――今回取り上げるのはガブリエル・ブレア著『射精責任』。鮮烈な表題と対置するように、モザイク処理を施した文字の並ぶ装幀が、社会の現状を体現している。 本書は、中絶をめぐる議論の出発点を「女性が妊娠した状態」から「男性が射精をする行為」に据え直すことで、これまで透明人間のように扱われてきた男性を当事者として招き入れるべく送り出された画期的な一冊だ。昨年七月に邦訳が刊行され、またたくまに話題となり現在5刷。出版業界にとどまらない大反響を巻き起こしている。原題(Ejaculate Responsibly)を逐語的に訳せば“責任を持って射精せよ”ということになるが、「日本で刊行するなら四字熟語のような、口に出したくなるタイトルにしたかった」と担当編集者は語る。 「たとえば“マンスプ”(※マンスプレイニングの略。男性が主に女性の無知を決めつけて見下すように何かを解説すること)という言葉は、それが広まるきっかけになったレベッカ・ソルニットの『説教したがる男たち』を読んでいない人も気軽に使っていますよね。同じように、言葉それ自体でもひとり歩きするようなタイトルにすることで、避妊をめぐる話題がもっと身近なものになってくれればいいなと思ったんです」(同) 実際、本書のなかでも、子どもが自由に質問できて、ちゃんと回答があるような性教育の環境が「望まない妊娠」に対抗する解決策であることが各国のデータに基づいて示されている。一方、いまだ刑法に堕胎罪が存在する日本では、建前上は「例外」として場当たり的に中絶が運用されてきた経緯がある。要は議論をうやむやにして問題の核心をスルーしてきたわけだ。 「隠されてきたからこそ余計に不安になって感情的になってしまう面はあると思う。刊行当初に比べて男性の感想が増え、好意的な反応も目立つようになってきたのが嬉しいです」(同) [レビュアー]倉本さおり(書評家、ライター) 1979年、東京生まれ。毎日新聞文芸時評「私のおすすめ」、小説トリッパー「クロスレビュー」、文藝「はばたけ! くらもと偏愛編集室」、週刊新潮「ベストセラー街道をゆく!」を担当、連載中。ほか『文學界』新人小説月評(2018)、『週刊読書人』文芸時評(2015)など。ラジオ、トークイベントにも多数出演。作品の魅力を歯切れよく伝える書評が支持を得ている。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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