京都市の「高級ホテル」開業ラッシュは“人口減少”のカウントダウンか? 役所は関係否定も、止まらぬ観光公害&地価高騰で今後どうなる
不足分の客室数は既に確保
市はコロナ禍前に年間5000万人以上の観光客が押し寄せていた。その際、問題になったのが宿泊施設の不足だ。訪日客が右肩上がりで増えていた2016年、当時の門川大作市長は 「客室が1万室足りない。泊まりたくても泊まれない状態」 と記者会見で説明した。違法民泊の増加など別の問題点も表面化した。 そこで市はこの年、宿泊施設拡充・誘致方針を打ち出し、ホテル誘致にかじを切る。満杯状態の市中心部に残った土地が次々にホテル用地に変わった。東山区で閉校となった清水小学校の校舎が「ザ・ホテル青龍京都清水」として再生されるなど、小学校跡地にもホテルが整備されている。 2017年には上質宿泊施設誘致制度を導入、宿泊施設の整備が規制されてきた住居専用地域などでの立地に道を開いた。上質宿泊施設の定義には「ラグジュアリーホテル」と呼ばれる高級ホテルが含まれている。市観光MICE推進室は 「認定したホテルは4件。いずれも開業していないが、市が上質な宿泊施設を求める姿勢を示すことができた」 としている。 その結果、2016年度に550施設、約2万8000室だった旅館・ホテルが、2022年度で650施設、約4万3000室に増えた。だが、訪日客は増え続け、コロナ禍前を上回る勢いになっている。市観光協会の調査では2023年度、宿泊客の半数以上を訪日客が占めた月もあった。このまま訪日客が増え続ければ、混雑がさらに深刻化しそうだ。
オフィス、マンション確保へ高さ制限緩和
もうひとつ問題が浮上している。市中心部でマンションやオフィスの適地が限られ、地価が高騰していることだ。国土交通省の公示価格は市の平均価格で2022年までの10年間に66%上昇し、全国平均の38%を大きく上回った。市中心部で新たに建つマンションは「億ション」が珍しくない。 滋賀県大津市のマンションモデルルームには、京都市からの来場者が相次いでいる。西京区の30代女性は 「夫の職場がある下京区がよかったが、価格が高すぎる。大津市なら価格も手ごろで、京都駅まで電車1本で行ける」 と物件を気に入った様子。 京都市の推計人口は5月1日現在で約144万人。2019年までおおむね146~147万人で推移し、その後2020年と2021年に減少数が全国の市町村で最多となるなど、減少幅が広がった。 市民の間でホテル開業ラッシュを人口減少の原因に挙げる声もあるが、市人口戦略室は2010年から2022年までの推計人口増減率でホテル開業が相次いだ中京区、下京区など市中心部の人口が増えていることを挙げ、 「ホテルが人口減少の原因とは考えにくい」 と相関関係を否定した。 しかし、職住近接を目指し、人口流出が進む北区や西京区など周辺部から市中心部へ向かう人の流れの受け皿が足りないのは事実。さらに、大型オフィスビルの供給は長く停滞していた。このため、市は2023年、オフィスやマンション確保に向け、山科区やJR京都駅以南など周辺部で建物の高さ規制、容積率を緩和した。 ホテルの開業ラッシュは市を世界的な人気観光地として定着させた。観光産業は市内総生産の10%程度を占める主要産業になっているが、今後は増え続ける訪日客対策を講じながら、人口流出に歯止めを掛けなければならない。市は難しいかじ取りを迫られている。
高田泰(フリージャーナリスト)