映画『一月の声に歓びを刻め』:三島有紀子監督の思いをのせた“3つの島をつなぐ声”
心に傷を負った人々の声
孤立した島と島を結び、何かを届ける船をイメージした物語。脚本ができあがったときのタイトルは『パーツ・オブ・シップ』だった。 「船のパーツは心の傷を表していて。ひとつひとつは重くて沈むんだけど、組み立てると浮かんでどこかに行けるっていう意味で。でも実際に撮影して、前田さんの肉体からこぼれる慟哭だったり、麻紀さんの叫びだったり、哀川さんのつぶやきだったり…。この物語は声なんだな、声を中心としたタイトルにしようと」 ここ数年、セクハラや性暴力の被害者たちが声を上げる事例が相次ぎ、この問題に対する社会全体の認識が大きく変わりつつある。ただ、三島監督にとって、この映画の出発点が自身の体験にあることは確かだが、ことさら性暴力の被害にフォーカスした物語にしようと思ったわけではないという。 「心に傷を負った登場人物たちが、もがきながら“性”と“生”を見つめていく映画なのかなと。人それぞれ、本当にいろんな傷を抱えて生きている。この物語は、観る人によって、さまざまな感じ方ができると思うんです。だからまず、映画として素直に楽しんでいただけたらいいなって。私自身の体験が背景にあってできた物語だということを、知って観ていただくのもいいし、全然知らなくてもいい。私はたまたま47年という時間を経て、このテーマに取り組めました。映画監督なので、映画という形にできた。そのことがすべて、という感じです」 取材・文:松本卓也(ニッポンドットコム)
作品情報
・出演:前田 敦子、カルーセル麻紀、哀川 翔 坂東 龍汰、片岡 礼子、宇野 祥平 原田 龍二、松本 妃代、とよた 真帆 ・脚本・監督:三島 有紀子 ・製作:ブーケガルニフィルム ・配給:東京テアトル ・製作国:日本 ・製作年:2023年 ・上映時間:118分 ・テアトル新宿ほか全国公開中
【Profile】
三島 有紀子 MISHIMA Yukiko 大阪市出身。18 歳から自主映画を撮り始め、神戸女学院大学卒業後 NHK に入局。人間ドキュメンタリーを数多く企画・監督。2003 年に独立し、フリーの助監督を経て、オリジナル脚本・監督で『しあわせのパン』(12)、『ぶどうのなみだ』(14)を発表。『幼な子われらに生まれ』(17)が第 41 回モントリオール世界映画祭で審査員特別大賞に輝いたほか国内外で多数受賞。他の代表作として、『繕い裁つ人』(15) 、『少女』(16) 、『Red』(20)、セミドキュメンタリー映画『東京組曲2020』(23)、短編『よろこびのうた Ode to Joy』(21『DIVOC-12』)、『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』(22『MIRRORLIAR FILMS Season2』)、など。 松本 卓也(ニッポンドットコム) MATSUMOTO Takuya ニッポンドットコム多言語部チーフエディター/編集部スタッフライター。映画とフランス語を担当。1995年から2010年までフランスで過ごす。翻訳会社勤務を経て、在仏日本人向けフリーペーパー「フランス雑波(ざっぱ)」の副編集長、次いで「ボンズ~ル」の編集長を務める。2011年7月よりニッポンドットコム職員に。2022年11月より現職。