沢村賞の選考基準問題「先発完投10以上」「中6日は甘い」苦言が常態化してるが…過去42年の「項目達成数」を比べると時代錯誤なのでは
「選考基準」過去42年の平均クリア数は?
沢村賞の問題点は、せんじ詰めれば「選考基準」にある。今から42年前の1982年に定められたものだ。 ・登板試合数:25試合以上 ・完投試合数:10試合以上 ・勝利数:15勝以上 ・防御率:2.50以下 ・勝率:6割以上 ・投球回数:200イニング以上 ・奪三振:150個以上 この全項目をすべて満たす必要はないとはいえ――沢村賞受賞者はできるだけ多く選考基準をクリアしている方が良いのは言うまでもない。1982年以降、受賞者のクリア数は以下のようになっている。10年ごとの平均項目達成数とともに見ていく。 〈1980年代〉 1982年/北別府学(広島)7 1983年/遠藤一彦(大洋)6 1984年/該当者なし 1985年/小松辰雄(中日)6 1986年/北別府学(広島)7 1987年/桑田真澄(巨人)7 1988年/大野豊(広島)4 1989年/斎藤雅樹(巨人)7 1980年代の平均項目達成数:6.28 〈1990年代〉 1990年/野茂英雄(近鉄)6 1991年/佐々岡真司(広島)7 1992年/石井丈裕(西武)4 1993年/今中慎二(中日)7 1994年/山本昌広(中日)5 1995年/斎藤雅樹(巨人)6 1996年/斎藤雅樹(巨人)5 1997年/西口文也(西武)6 1998年/川崎憲次郎(ヤクルト)4 1999年/上原浩治(巨人)6 1990年代の平均項目達成数:5.60 〈2000年代〉 2000年/該当者なし 2001年/松坂大輔(西武)5 2002年/上原浩治(巨人)5 2003年/井川慶(阪神)5 2003年/斉藤和巳(ダイエー)4 ※2人受賞 2004年/川上憲伸(中日)4 2005年/杉内俊哉(ソフトバンク)5 2006年/斉藤和巳(ソフトバンク)6 2007年/ダルビッシュ有(日本ハム)7 2008年/岩隈久志(楽天)6 2009年/涌井秀章(西武)7 2000年代の平均項目達成数:5.40 〈2010年代〉 2010年/前田健太(広島)6 2011年/田中将大(楽天)7 2012年/攝津正(ソフトバンク)5 2013年/田中将大(楽天)6 2014年/金子千尋(オリックス)5 2015年/前田健太(広島)6 2016年/K・ジョンソン(広島)4 2017年/菅野智之(巨人)5 2018年/菅野智之(巨人)7 2019年/該当者なし 2010年代の平均項目達成数:5.66 〈2020年代〉 2020年/大野雄大(中日)3 2021年/山本由伸(オリックス)5 2022年/山本由伸(オリックス)5 2023年/山本由伸(オリックス)4 2024年/該当者なし 2020年代の平均項目達成数:4.25 10年区切りの項目達成数を再掲すると、1980年代は平均6.28個、90年代は5.10個、2000年代は5.40個、2010年代は5.66、そして2020年代は――山本由伸が3年連続沢村賞の偉業を達成した一方で――4.25と確実にクリア数は減っている。 なお、2018年から「クオリティスタート(QS)」も選考の際に考慮することになった。MLBのQSは「先発で6回以上投げて自責点3以下」だが、沢村賞のQSは「先発で7回以上投げて自責点3以下」になっている。
全項目クリアは2018年の菅野が最後
今シーズンは登板数・勝率・奪三振の3項目をクリアした投手が伊藤大海(日本ハム)、モイネロ(ソフトバンク)、早川隆久(楽天)、戸郷翔征(巨人)と4人いた。勝利数は菅野智之(巨人)が、15勝でただひとりクリアしている。完投数10は、2020年の大野雄大(中日)の10完投以来出ていない。200投球回は2018年の菅野の202回が最後。そして7項目クリアも同年の菅野が最後である。 平均項目達成数の変化は、ここ数年で先発投手における考え方が大きく変わってきたことが大きく関与している。〈つづく〉
(「酒の肴に野球の記録」広尾晃 = 文)