「無実の人が無罪になると限らない」 有罪率99%の壁に挑む刑事弁護人 幼児虐待疑われた1審有罪の被告を信じて
■「無実の事件は調べるほど無罪の証拠が出てくると実感」
検察側が重視したのは、脳の中枢にある「脳幹」でした。解剖医が「脳幹が溶けていた」と記載していたことから、頭に強い力が加わったことで頭蓋内出血や脳幹が損傷し、その結果、心肺停止になったというのが検察の主張でした。 【川﨑拓也弁護士】「何が原因でこの子は心肺停止になったんですかっていうのが、分からないまま進んでいたんですよね。勉強しながらという感じだったので、その時は苦しかったですね」 初公判の直前、川崎弁護士が頼ったのが、揺さぶられっ子症候群が疑われた裁判で相次いで無罪を勝ち取っていた秋田弁護士でした。 【秋田真志弁護士】「本当に無実の事件は、調べれば調べるほど無罪の証拠が出てくるものなんやと。それを本当に実感している事件です」
弁護団は、保管されていた細胞組織を顕微鏡で検査。その結果、見つかったのが「心筋炎」でした。 【秋田弁護士】「『うっ』となって突然倒れて、うわっと吐いたという、まさに心不全、不整脈なんかで起こる、心臓から来ている時に起こる症状と、ピタッと一致しているわけです」 弁護側は、心筋炎などで「心肺停止」となり、低酸素状態で脆くなった脳の血管に、心拍が再開して血液が一気に流れ込み、頭蓋内で出血が起きたと主張。 また脳幹が溶けていたとしても、人工呼吸器につながれていた患者に見られる症状で説明できると判断しました。 【今西貴大被告の日記より】「朝、弁護士接見。今日はすげーことを教えてもらった。心筋炎。これが一番の、直接の原因らしい」 【今西貴大被告の母】「(今西被告の手紙を読み)おかんの顔見たら安心する。今日も来てくれていると思って元気が出てくる。ありがとう。心配かけてごめんな」 涙声で読み上げ、小刻みに震える手で大事そうに手紙を握っていました。
■懲役12年の実刑判決に涙した川崎弁護士
しかし、2021年3月、大阪地裁は、検察側医師の証言に説得力があり信用できるとして、懲役12年の実刑判決を言い渡しました。 【今西貴大被告の日記より】「終わってる。もうどうでもいい、もうどうなってもいい。こんなやってもないことで、こんなことになるなんて…ありえへん」 【川﨑拓也弁護士】「やっぱりショックで。たまに記者会見の映像とか見たら、全然覇気がないですよね。顔、死んでるなみたいな」 「もう(刑事弁護を)やめた方がいいんじゃないかな、みたいな。そういう思いになった」 「思い出しても……ちょっと悔しかったですね…」 胸の内を語り、涙した川崎弁護士。 今西被告は控訴し、弁護団は広く支援を呼びかけることにしました。 【川﨑拓也弁護士】「無実と無罪は違う概念で、本当の無実の人が無罪になるとは限らない」 「私の中でもじくじたる思いがあって、一審の段階でもっと突き詰めてやっていれば、もしかしたら結果が変わっていたかもしれない」 「弁護士って基本的に嫌われ者じゃないですか。あるいは、悪い人の罪を軽くする仕事みたいな」 「無罪、無実を確信してる人がやっぱり自分の後ろにいるっていうのは、心強いですよね」 二審でも焦点となったのが、頭蓋内出血が心肺停止より先だったと言い切れるのかどうかでした。