「どこにいるか」「どのくらいのスピードで移動しているか」までバレる! 「GPSのような働き」をする驚きの脳細胞
累計43万部を突破し、ベストセラーとなっている脳研究者・池谷裕二さんによる脳講義シリーズ。このたび、『進化しすぎた脳』 『単純な脳、複雑な「私」』 (講談社ブルーバックス)に続き、15年ぶりとなるシリーズ最新作『夢を叶えるために脳はある』(講談社)が刊行された。 【写真】「脳」は、いったいなんのためにあるのか…その「答え」 なぜ僕らは脳を持ち、何のために生きているのか。脳科学が最後に辿り着く予想外の結論、そしてタイトルに込められた「本当の意味」とは――。 高校生に向けておこなわれた脳講義をもとにした本書から、その一部をご紹介しよう。
「場所細胞」とはなんだろう
ネズミの実験なら、より精細なことが当てられる。「場所細胞」を知っている人はいる? ー はい! 一人だけかな。場所細胞を発見した人にも2014年にノーベル生理学・医学賞が与えられている。一般には有名ではないかもしれないけれど、重要な発見なんだ。 場所細胞とはなにか。これは海馬という脳部位にある神経細胞だ。海馬に細い電極を刺せば記録できる。できるだけたくさんの電極を刺して、多くの海馬細胞の発火を同時に記録する。そして、ネズミに広いスペースを自由に探索させると、場所細胞が観察できる。 たとえば、神経細胞Aはそのネズミが場所Aに来たときに発火する。別の神経細胞Bは別の場所Bに来たときに発火する。こんな具合に、海馬の神経細胞は、特定の場所にやってきたときに発火する。 図(場所細胞の発火 ※図版要変更)の右、線で描いてあるのがネズミの通った経路。赤い点で示したのが、その神経細胞が発火した場所。ある特定の場所に赤い点が集まっているよね。 ー だから場所細胞なのですね。 そう。場所に応じて発火するから場所細胞。むずかしい話ではない。
自分がいる場所が分かるのはなぜ?
よくよく考えれば、僕らは「いま自分がいる場所」を知っているよね。高校の教室にいる。場所がわかるということは、自分の脳内で、その場所にある神経細胞が反応しているということでもある。でなければ、いまどこにいるかわからないはずだ。 僕らに「場所」という認知がある以上、場所に対応する神経活動があるのは当たり前のことだ。 だから、場所細胞の発見それ自体は予想どおりで、なんの変哲もない、凡庸なデータに見える。ただ、このデータからわかることが、実は、すごい。なぜか? まず、僕らは、いまどうして自分がいる場所がわかる? まわりの景色を見れば一発だ。教室にいることは、周囲を見回せばわかる。「まあ、そりゃそうだろう」という感じだけれど、これが意外と単純ではない。なぜなら部屋の電気を消して真っ暗闇にしても、場所細胞の発火は消えないからだ。 たとえば、目が不自由な方は、自分が部屋のどの場所にいるかを把握している。僕らだって、目を閉じながら部屋に入っても、なんとか杖や手で探りながら歩けば、いま部屋のどこら辺にいるかがわかる。場所は目で認知して生まれるわけではない。必ずしも視覚を必要としない。