「独自政策の財源に」ふるさと納税で人口減止めた酪農の町 上士幌・竹中町長
「人より牛が多い?」豊かな自然と畜産、気球
そもそも上士幌町とはどんな町なのか。人より牛が多い――。同町によると約5000人の人口に対して、乳牛2万2580頭、肉牛2万2149頭の計4万4729頭の牛がいて、人間の約9倍いる計算になる。文字通り畜産の町だ。 竹中町長によると、「農業が基幹産業としてあって、林業、観光で地域活性化を図る」のが町の戦略だ。農業は大型化が進み、耕地面積は1戸あたり50ヘクタール以上の規模が中心。畜産、酪農が盛んで、農業では小麦、てん菜(ビート)、豆類、じゃがいもなど栽培している。
もう一つの柱と掲げる観光では、大雪山(だいせつざん)国立公園の東山麓に位置するという豊かな自然が強みになっている。 町を代表する観光スポットである「ナイタイ高原牧場」。日本一広いという高原牧場で東京ドーム358個分の広さを誇る。そこに2000頭以上の乳牛が放牧されている。標高800メートルから広大な十勝平野が一望でき、竹中町長は「スケール感といい、北海道を象徴する広大さを満喫するにはここが一番」と自賛する。 産業遺産も静かな人気を集める。「タウシュベツ川橋梁」だ。かつて帯広と十勝を結んだ旧国鉄・士幌線のコンクリートアーチ橋梁群の一つで、1955(昭和30)年の糠平ダムの建設に伴い、橋梁がダム湖に沈むことから鉄道橋としては使用されなくなった。ただ季節によってダム湖の水位が変化し、姿が見え隠れするため“幻の橋”の異名を持つ。 毎年夏に開かれる「バルーンフェスティバル」も歴史の長いイベントだ。全国から集まった色とりどりの熱気球が上士幌の青空を彩る。1974(昭和49)年から始まり、今年8月には第46回を数えた。冬にも2月に「ウィンターバルーンミーティング」があり、熱気球が冬空を遊覧する。
かつて全国でも有数の寄付額を集めた
「エッ! こんなにも!」 人口減と格闘する町の姿を追った「ふるさと創生 北海道上士幌町のキセキ」(木楽舎)には、突如2億4000万円もの財源を得た際の町役場の様子が描かれている。 実は上士幌町は、まだふるさと納税が「返礼品競争」に巻き込まれる前、全国でも有数の寄付額を集める自治体だった。 町の寄付額は、2009年度から数年間は1000万円前後が続いたが、2013年度に転機が訪れる。一気に2億4350万円(寄付件数1万3278件)に跳ね上がり、この年、北海道でもっとも寄付金を集めた自治体となった。 さらに翌年、9億7475万円(同5万4648件)と全国3位に躍り出た。2015年度には15億3655万円(同7万5141件)と伸ばし、2016年度には、町として過去最高額を記録となる21億2482万円(同9万5183件)を集めた。 「返礼品は寄付額の3割まで」と総務省通知のあった2017年度こそ16億6693万円(同8万8116)と落とすが、昨年2018年度は20億8544万円と寄付額を戻し、寄付件数は過去最高の11万8522件だった。 上士幌町のここ数年の年間予算額を80億円規模とすると、実に約4分の1にあたるお金を一般財源とは別に手にしている計算になる。 ちなみに上士幌町で人気の返礼品は、地元の乳牛から搾乳して作ったアイスや、地本の牧場で育てた十勝ハーブ牛や十勝ナイタイ和牛、さらにはちみつなどが挙げられる。