「つばさの党」の”選挙妨害”立件へ…「表現の自由」の主張はどこまで認められるか?【弁護士解説】
警察が「選挙期間中の逮捕」に踏み切るのはなぜ困難なのか
――警察が選挙期間中の逮捕に及び腰だというのは、どういうことでしょうか? 三葛敦志弁護士: 「前述したように、妨害行為にあたるか否かの認定については慎重を期さなければなりません。そうなると、必然的に、現場に臨場した警察官が現場で判断するのは難しくなります。 それに加えて、選挙の場合、警察官の立場としてはとりわけ慎重にならざるを得ません。なぜなら、警察という国家権力が介入したせいで選挙結果が左右されたとの批判を受けかねないからです。 特に、北海道警が、ヤジを飛ばした一般人を排除したことが裁判で『違法』と判断されたことは、警察にとって一種のトラウマのようになっているようです(札幌地裁令和4年3月25日、札幌高裁令和5年6月22日参照)。 そのため、選挙期間中の現場判断として、現行犯逮捕がかなり難しくなるのは、やむを得ない面があるといえます。 しかし、他方で、妨害行為に対して警察が『及び腰』になることも、健全な民主主義のためには避けなければなりません。 今回の件のように、妨害行為が放置されれば、『選挙期間中なら逮捕されない』として、妨害側はやりたい放題と受け止められかねません。そうなれば、かえって選挙の公正が害され、民主政の過程がゆがめられることになってしまいます」
警察が選挙運動期間中に逮捕に踏み切るためには
――警察の行動規範として、具体的にどのようなものが考えられますか? 三葛敦志弁護士: 「これは一つの案ですが、妨害行為が常態化し、警察が警告しても事態が改善されない場合に、前述のとおり現場判断としての現行犯逮捕が難しいにしても、警察が裁判官の令状を得て選挙期間中にも逮捕に踏み切ること、逮捕しないまでもそれがありうると示すことは、現行法のもとで執りうる手段です。 裁判官も慎重に判断することにはなろうかと思いますが、『選挙中だから警察は強制的な手段に出ない』という間違ったメッセージを正す必要はあるでしょう。 妨害行為に対して警察が警告しても、それが無視されて妨害行為が繰り返されているような場合については、裁判官が認めた逮捕令状に基づいて逮捕するという運用が有効なのではないかと考えます。 今回、選挙期間中の4月21日に、街頭演説会での暴行罪(刑法208条)容疑での現行犯逮捕者が出ました。これは、警察官の面前で暴行行為が行われ、犯罪事実が明白だったからです。後日、容疑が選挙の自由妨害罪に切り替えられました。 選挙期間中であっても、少なくとも、犯罪事実が明白な場合であれば現行犯逮捕は認められます。ましてや、通常逮捕ができないという理由はないはずです」 ――組織的に行われる妨害行為については、行為者の特定や犯罪行為の特定が難しくなることが予想されますが? 三葛敦志弁護士: 「今日では必ずしもそうとは言い切れません。証拠を揃えることは十分に可能です。 たとえば、妨害行為が行われている現場を撮影した動画や写真等の記録が考えられます。これは、行為者と犯罪行為を特定することができる有力な証拠となりえます。 なお、路上等で公然と犯罪行為が行われている場合、証拠保全のために相当な方法で行われる撮影行為については、判例によれば、行為者の肖像権の侵害等の問題は生じないとされています(最高裁昭和44年12月24日判決)。 また、大音量での演説妨害については、スマートフォンの騒音計測アプリを用いて測定することも考えられます。技術の進歩によりこうした手軽な方法が出現しています。 これらによって、犯罪行為の内容、日時、行為者等を特定することは比較的容易だと考えられます」 ――運動員だけでなく、候補者や責任者が直接手を下していない場合に、いわゆる『共謀共同正犯』として立件することも考えられるでしょうか? 三葛敦志弁護士: 「明らかな指示や、主体的に関わっていたというのであれば、立件の余地はあります。しかし、これも慎重に判断する必要があります。そうでなければ、権力側が濫用しかねないからです。一方で、それにより政党や政治団体の解散命令が出されるとなると、政治活動の自由の見地から大きな問題となります。 『共謀共同正犯』は、客観的な実行行為を行っていないにもかかわらず、共同正犯(刑法60条)として処罰するものです。そして、その認定については、自ら手を下したと同視できるだけの主導的な役割を果たしていたか、客観的な事実を基に慎重に判断することが求められます」