「つばさの党」の”選挙妨害”立件へ…「表現の自由」の主張はどこまで認められるか?【弁護士解説】
表現の自由・政治活動の自由の制約は慎重を期すべき
――本件は、「表現の自由・政治活動の自由」とはかかわりがないという理解でよいでしょうか。 三葛敦志弁護士: 「かかわりがないとするのは正確ではありませんが、今回の件については、つばさの党の一連の『行為』の違法性が突出しており、政策を伝えることは他の手段による方法もありうることから、表現の自由・政治活動の自由そのものとはズレていると考えます。 しかし、他方で、他陣営の選挙運動に対して何らかの敵対的な行為をすることが直ちに『選挙の自由妨害罪』になるのか、という問題は残ります。 報道によれば、今回のつばさの党による選挙妨害は、①大音量等による演説妨害、②選挙カーの追い回し、③選挙スタッフへの暴行脅迫に大別されるとみられます。 これらの行為について、本件を離れて一般的に考えると、③の暴行脅迫が明らかである場合はともかく、①演説妨害、②選挙カーの追い回しについては、慎重な判断が要求されると考えるべきです。 まず、①演説妨害については、選挙演説中にヤジを飛ばしたら、直ちに『演説を妨害し』(法225条2号)に該当するわけではありません。単純なヤジ程度であれば、リアクションの一つ、表現の自由の正当な行使の一環として許容されると考えるべきです。 ②選挙カーの追い回しについて、たとえば一本道で選挙カーのコースがかぶることはしばしばあります。その際に、前に通った選挙カーが言っていたことを、後ろの選挙カーが否定することはあり得ることで、これを直ちに選挙の自由妨害とは言えないでしょう。なお、公選法上、走行中は『連呼行為』しかできません。 政治活動や表現活動は、なにがしかの行動・出力を伴います。そして、それらが憲法上の重要な権利である以上、処罰に値するというには、主張・表現の内容ではなく、あくまでも行為態様が『度を越している』と言えなければならないのです。その範囲を慎重に画する必要があると考えています」 ――選挙期間中の妨害行為に対する規制の強化が一部で議論されていますが。 三葛敦志弁護士: 「私は、規制の強化については慎重であるべきだと考えています。 なぜなら、すでに公職選挙法の『選挙の自由妨害罪』は、妨害行為についてかなり網羅的に処罰する規定となっているからです。それに加えてさらに規制を強化するとなると、『表現の自由』『政治活動の自由』に対する過度の制約になりかねず、萎縮効果をもたらすおそれがあります。 むしろ問題は、現在の『選挙の自由妨害罪』の運用のあり方にあると考えています。警察は選挙期間中の逮捕にかなり『及び腰』だという実情があります」