VIPカーの雰囲気を讃える5ナンバー車! 新ワールド・クォリティカーとして登場したホンダ「アコード・インスパイヤ」
ハイソカーとしての地位を確立した「アコード・インスパイヤ」とは
インスパイヤを辞書で紐解くと、興味深い記述が確認できます。 「他者の作品やアイデアから刺激を受け、新たな創造物を生み出すこと」とあります。ネガティブに解釈するならば、模倣、パクリ。ポジティブに評価するのならば、他者へ感動を与える、インスパイヤされる側となります。 【画像】「いま見てもカッコイイぞ!」ホンダ「アコード・インスパイヤ」の画像を見る(10枚)
ホンダがこのクルマを「インスパイヤ」と命名したのは、はたしてどちらの思いでしょうか。 ホンダが自ら模倣品でありパクリなどに思いを込めるはずもないので、後者には違いありません。 ただし、このクルマがデビューした1989年はバブル経済の真っ只中に位置しています。金余りの国民はコンパクトセダンでは飽き足らず、コロナより大きなミドルセダンを求めており、そんな富裕層をターゲットにしたマークII/チェイサー/クレスタ三兄弟が爆発的にヒットしたわけです。
ホンダもその成功に触発されインスパイヤ、アコードを肥大化させたインスパイヤをデビューさせたのです。正式名称は「アコード・インスパイヤ」でした。 全長4690mm、全幅1695mmでしたから、ボディサイズ的には5ナンバー枠に収まりますが、ホイールベースは2805mmに達していました。自らステアリングを握るためのドライバーズカーではありますが、後席には余裕がありました。VIPカーの雰囲気を讃えてもいたのです。 時代はこのジャンルに属するモデルを「ハイソカー」として持て囃したのです。ハイソカーの語源は、「ハイソサエティのクルマ」です。 ですから内外装はとても豪華でした。ここで紹介する「AG-1」グレードには、当時としてはとても贅沢な天童木工製のウッドがあしらわれていました。シート生地はふかふかでソファーのようでした。そんな豪華さを日本国民は好んだのです。 機構的にも凝っていました。搭載するエンジンは直列5気筒です。それを縦置きにしています。
ホンダは当時からFF駆動方式に拘っていました。ですからエンジンを横置きに搭載するのが自然でした。結果的に全長の短い4気筒以下のエンジンしかラインナップしていませんでした。ボディの幅に収めるためにはエンジン長を長くできない。V型6気筒時代が訪れる前のことです。 ですが、高級志向のユーザーは6気筒や8気筒のマルチシリンダーを求めていました。そこでホンダは、5気筒エンジンを開発したのです。 縦置きにしたのも、高級車が一般的に採用していたからでしょう。ただ、エンジンを縦置きにしたのにFF駆動方式でしたことで、レイアウト的に無理が生じました。エンジンの真横にトランスミッションを搭載せざるを得ず、そのままでは、そこから左右に伸びるドライブシャフトをエンジンの下を通過させることになります。ですがそれではエンジンを持ち上げることになり、ボンネットが高くなってしまいます、それは醜い。苦肉の策で、エンジンのオイルパンを貫通させることで解決してみせたのです。